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赤ちゃんにむし歯がうつる?? シリーズ その1

むし歯のできるプロセスとは
生まれたばかりの赤ちゃんの口の中には歯がないので、むし歯の原因菌である「ミュータンス菌」もいません。子どものむし歯の発現機序の始まりは、ミュータンス菌が口の中へ感染することです。その次にショ糖摂取などの影響によってミュータンス菌の活性が高くなり、歯を溶かす酸をたくさん出すことで脱灰(歯が溶けること)が始まります。それをそのまま放置すると、やがてむし歯が形成されます。

赤ちゃんむし歯は感染症でも、ミュータンス菌の感染だけで発生するわけではありません。むし歯とはミュータンス菌の存在に加えて、ショ糖摂取の習慣や、歯みがきなどの刷掃習慣が関わって初めて発症するのです。そのため、たとえミュータンス菌に感染したとしても、生活習慣に気をつければむし歯の発症を抑制できるのです。

感染の窓とは
ミュータンス菌が感染したとしても、口の中に定着(棲みつく)するためには、菌にとっての「家」が必要です。ミュータンス菌の「家」になるのは「歯」だといわれています。そのため、ミュータンス菌の定着の時期は歯の萌出後だという考えが一般的です。赤ちゃん定着時期の中でも特に「感染の窓(window ofinfectivity)」と言われているのは「生後19~31か月」。そのため、この時期にミュータンス菌を口の中に多く持っている母親は感染源として要注意です。特に、2歳前に感染するとむし歯発症の可能性が高くなり、その重症度も高くなります。したがって、ミュータンス菌の感染・定着時期を遅らせるだけでも、子どものむし歯予防を容易にします。特に母親からの伝播に関しては、少なくとも2歳までは注意が必要です。

むし歯菌の口腔内定着に関わる要因
これまでの研究報告から、以下の項目にあてはまる場合に子ども(6か月児)がむし歯菌に感染する割合が有意に高いことがわかりました。

1.子どものショ糖の摂取頻度が高い
2.授乳 ...特に、「母乳を欲しがるたびに与える」「夜間の授乳」イラスト
3.子どもの習慣行動 ...「同じ食べ物を共有」「他の人の指を吸う」「他の人による味見」「スプーンなどの共有」「トレーニングカップの使用」
4.母親の口腔内のむし歯菌数が多い
5.母親がおやつを1日2回以上食べる

むし歯菌感染予防の基本
感染症とは、「病原菌」に感染している人「感染源」から、「感染経路」を通じて「宿主」へと感染することです。感染症対策には、基本的に「感染源」の病原性を発揮させない方法、感染源から隔離して「感染経路」を遮断する方法、ワクチンの予防接種などで「宿主」を強化する方法があります。
そのため、ミュータンス菌の母子伝播を予防する方法は以下の3つに要約できます。

イラスト1.感染源(特に母親)のミュータンス菌数を減少させる
 母親や家族が歯科医院で口腔衛生指導やクリーニングなど定期的なメインテナンスを受ける。
2.感染経路を遮断する
 子どもと同じお箸やスプーンを共有しない、あるいは噛み与えをしない。
3.宿主(子ども)のショ糖摂取制限
 ミュータンス菌が子どもの口の中に感染する時点でショ糖がすでに存在すると、ミュータンス菌の定着が促進されるからです。

...しかし、「お箸やスプーンの共有は避ける」あるいは「子どもにショ糖摂取をさせない」という感染予防方法を出産前からすでに知っていても、実際にはなかなか実践できない、そしてまた長期間継続できない、というのが現状です。  →そこで必要なのが発想の転換です!!

イラストむし歯菌の母子伝播予防における基本方針とは?

1.予防...うつらないに、こしたことはない
2.遅延...遅いほど、軽症のむし歯ですむ
3.子どもの口の中に伝播してもかまわない菌(定着しにくい善玉菌)に変える

第1の方針として、むし歯発症を防ぐにはその原因菌である「ミュータンス菌に感染しない(うつらない)」にこしたことはありません。また、感染時期が遅ければ遅いほどそのあとに生ずるむし歯は軽症になります。特に2歳になるまで子どもの口の中にミュータンス菌が定着しなければ、その後のむし歯予防がラクになります。
第2の方針は「感染の遅延」です。子どものためにミュータンス菌の伝播予防を認識することによって、その家族全員が自分の口腔内の健康状態・衛生状態を意識することが重要です。
第3の方針は、「万が一、子どもの口腔内へ伝播してもかまわないように、ローリスクの菌(定着しにくい菌)に変える」ことです。すなわち、単に「感染の経路を断つ」「宿主側(子どもの口の中)のショ糖を断つ」だけでなく「感染源を変える」という発想。むし歯菌の「量」ではなく「質」を変えるということです。
では、むし歯菌の「量」ではなく「質」を変えるには、どうしたらよいでしょうか? 次回に続く...
 


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