院長の一言... 「マルチブラケット装置での通院間隔」
マルチブラケット装置を使用した本格矯正治療での通院間隔は一か月に一度です。
これは私が知っている限り50年以上前からこのように決められていました。
この根拠にはおそらく歯科矯正学での生力学の世界的権威であるバーストン先生が教科書で解説している有名な図からではないかと思っています。
それによると、治療による歯の動きはinitial phase、lag phase、postlag phaseの三段階に分けられます。
歯に矯正力がかかると歯は急速に動きます。これは歯根膜腔内での歯の変異によるものでlnitial phaseと言います。その後lag phaseといって歯の動きは一旦減少し、歯根膜の硝子化変性によるものと考えられています。その次に歯槽骨の吸収が起こり、歯はふたたび急速に動きます。これをpostlag phaseと言い、やがて歯の動きは止まっていきます。この三段階が約1か月で、おおよそ1 mmの移動量になります。
ところが今年1月のAJODOという外国の一流学術雑誌に面白い研究発表が掲載されていました。
上顎前突の第一小臼歯抜歯による本格矯正治療で通院間隔を一か月毎と二週間毎とに分けて行った場合の治療成果と治療期間の比較についての研究でした。
それによると、両グループとも治療成果は良好で有意な違いはありませんでした。ところが治療期間では一か月毎の場合は28か月であったのに対し、二週間毎の場合は22か月で6か月、約半年もの差があったということでした。これには驚きました。
治療回数は増加するものの、装置の装着時間が短くなることは患者さんにとって有り難いことでしょう。ただし、どうして治療期間が大幅に短縮されたのかについての詳細な検討は明らかでないため、慎重に対応する必要があると思います。
令和6年2月のある日