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2023年8月28日

どのような分野もみな同じだと思いますが、学問や研究は常に進歩を続けています。
矯正治療に深く関係する歯科矯正学の分野も日々新しい課題や知見が発表されています。
それらすべてが明日の診療に必ず役立つものである、というとそうではありません。けれども近い将来、役に立つ場合が多いことはよく経験することです。

開業医は毎日の診療が仕事なので、研究や教育機関で聴講することは難しいです。
そのため、新しい知識を得る手段の一つは学会や学術セミナー、講演会などに出席して勉強することです。学会は年に数回開催され、そこで講演や研究発表、症例供覧などを見聞きしています。そうすることで期待していたことのほかにも、考えてもいなかった刺激を受けたりもします。

コロナパンデミック前には毎年開催されていた矯正治療の講演会に私は毎年参加していました。世界的に著名なアメリカの矯正専門医で、マルチブラケット装置の最新治療法と言われているシステムを構築されたマクロフリン先生の講演会です。
参加する度に日常の治療で役立つことを学び、新たな意欲を沸かせられていました。
残念ながら、今のところ開催の通知はありません。早く再開してほしいと思っています。

勉強するもう一つの方法は発刊されているテキストブックや定期刊行されている学術雑誌を購読することです。
テキストブックは非常に充実した内容のものが海外で多く出版されています。
先ほどのマクロフリン先生の著書はすでに6冊以上出版されています。また、成長期の矯正治療である早期治療の本も数多く出版されており、最近では800ページ以上もの分厚い大著が出版されました。
英語という難敵に挑戦している日々です。

令和5年8月のある日

2023年7月27日

5月の「院長一言」でお話ししました発音障害の続きで今回は「滑舌が悪い」ことについて考えてみたいと思います。

患者さんに「何か話しづらいことや聞き取られづらいことはありますか?」と質問すると、前回取り上げたように「サシスセソが言いづらい」とか「タチツテトが言いづらい」ということをよく聞きました。ところが最近は「ある特定の発音がしづらいということではないが、全体に滑舌が良くない」と答える患者さんが増えている気がしています。

私は大学院の研究テーマとして「不正咬合と発音障害」を勉強しました。数十年前の当時には構音(発音)障害に「滑舌が悪い」という現象は含まれてはおらず、そのような「構音障害」の種類はなかったように思います。

一般に構音障害とは声が出ない、はっきりと発音できない、特定の音が出ない、舌がもつれる、ろれつが回らない、などがあります。「滑舌が悪い」と感じている方は構音障害の中の後者の二つについて言っているのかもしれません。

また「滑舌」とは「言葉を明確に発音する口や舌の動き」とあり、滑舌が悪くなる原因として「舌や口の周囲の筋肉が硬くなり、動きが悪くなること」とあります。この口や唇などの筋肉の動きや舌の運動を障害させている原因として出っ歯(上顎前突)や口ゴボ(上下顎前突)、乱ぐい歯(叢生)などの不正咬合が関与している可能性は考えられます。

ただ矯正検査でアゴの運動や咀しゃく筋、舌の動きを診査するのですが、それらの動きに異常を認める場合は極めて少なく、滑舌が悪い状態を客観的に評価することが難しいのが現状です。
一つ考えられることは、不正咬合の障害で最も多い審美的な問題に起因する心理的な影響が発音や会話にも影響を及ぼしているのではないかと思います。その意味では不正咬合の改善は滑舌の改善に有効であると考えられます。

令和5年7月のある日

2023年6月29日

2月の院長一言では久しぶりの学会の現地参加として日本臨床矯正歯科医会福岡大会への参加をお話ししました。今月は地元の北海道矯正歯科学会への対面参加についてお話しします。

私たち矯正歯科医が主に入会して活動する学会は第一が日本矯正歯科学会(日矯)、その次が地方の矯正歯科学会で日矯の協力学会と言います。地方の矯正歯科学会には北は北海道矯正歯科学会から南は九州矯正歯科学会まで全国に七つあり、自分の診療所のある都道府県によって入会する学会が違っています。私は北海道なので北海道矯正歯科学会に入会しています。

2019年からWeb開催を続けていましたが、今年は三年ぶりに現地参加をメインに開催しました。そのためか百名を超える参加者で会場が埋まり、久しぶりに会う先輩や後輩などと話をする光景があちこちに見られました。私もその一人で、いろんな人に久しぶりに再会できたことで参加して良かったと強く感じました。

学会は学問の進歩発展と国民の口腔衛生の向上に寄与することが目的で、そのためにさまざまな分野の研究発表や著名な先生の講演、そして治療症例の供覧などが行われます。それらは日々の仕事に役立つ知識や技術、また将来の進むべき方向を教えてくれる有益な内容が含まれています。

学会が持つもう一つの大事な面は会員同士のコミュニケーションの場なのです。その内容は多岐に渡ります。仕事のことで日頃なかなか人には聞けない事や聞いたことがないこと、自分の考えが正しいのかなど。仕事以外では健康や生活の悩み、知人の状況など。学会は大切な団体なのです。

令和5年6月のある日

2023年5月25日

不正咬合(歯並びやかみ合わせの異常)によりさまざまな不都合が起こっています。その一つに発音障害があります。初診時の矯正相談で患者さんから「発音がしづらい」とか「滑舌が悪い」とかの訴えをよく聞きます。発音障害は不正咬合と深く関連があります。

「どの言葉が発音しづらいですか?」と質問すると、「サシスセソ、サ行が話しづらい」と答えることが多いです。それには理由があるのです。
私達が発音をする場合には調音方法と調音点という2つの重要な動きを口で巧みに行っています。調音方法には上と下の唇で吸気を破裂させて作る破裂音「パピプペポ」や上と下の前歯で吸気を摩擦させて作る摩擦音「サシスセソ」などがあります。調音点とは破裂音では上と下の唇、摩擦音では上と下の前歯のことをいいます。
これらの動作を瞬時にしかも連続して行なうことによっておしゃべりをしているのです。これら調音方法のやり方や調音点の構造に異常があると発音障害が起こってしまいます。

不正咬合で頻度が多いものに出っ歯(上顎前突)と受け口(反対咬合)があります。
出っ歯の場合は上の前歯が下の前歯よりも前に、受け口の場合は逆に後ろになっていて、どちらの場合も正常なかみ合わせよりも上と下の前歯が離れてしまっています。
それによって上と下の前歯で吸気をうまく摩擦させることができなくなっているのです。出っ歯や受け口の場合にもっとも発音しづらい言葉が摩擦音「サシスセソ」になっているのはそのためなのです。しかも、それでも何とかそれらしい音を作ろうと無意識ながら工夫をしているのです。その工夫として舌を使って音を作っていることが多く、そのために不自然な摩擦音になってしまっています。これが不正咬合による発音障害の理由です。

この科学的解明は1991年に北海道大学歯学部歯科矯正学講座の山本隆昭博士によって行われました。

令和5年5月のある日

2023年4月27日

ここ数年、病院や患者さんから「MRIの検査をするので矯正装置を外してください」とか「MRIの検査をするのですが矯正装置はどうすればよろしいですか?」との依頼や問い合わせが多くなっています。この件に関する歯科医師会や学会からのガイドラインが見当たらず、困っていました。大学の先生に相談したところ有益な論文を紹介していただいたのでご紹介します。

BMC Oral Healthという学術雑誌に2022年発表された「MRI compatibility of orthodontic brackets and wires: systematic review article」という論文で口腔診断学の先生が書かれたものです。この論文は今までに発表されたMRIと矯正装置に関する多くの論文を集め、その中から有用な研究結果と判断された18の論文の研究結果をまとめたものになっています。

これによると、MRIが矯正装置に与える影響は①装置の発熱、②装置の脱落、③画像への影響(アーチファクト)の三つです。今までのさまざまな研究報告から発熱や脱落はほとんど問題がなく、必要であれば装置と口腔粘膜との間にスペーサーを挿入することで防止することが可能です。

問題となるのは三番目の画像への影響、アーチファクトです。MRIの撮像部位や装置の材料にもよるのですが、金属は撮像された画像に歪みを生じさせてしまうことがあると指摘されています。具体的には、撮像部位が頭部や首の場合でステンレススチールやNi-Ti製のブラケットやワイヤーなどを装着していた場合は装置を一時撤去するべきであると指摘しております。首より下のそのほかの撮像部位の場合は装置を撤去する必要はないとも述べられています。

この論文を教えられてからは、当院では基本的にこのガイドラインに従って対応することにしています。

令和5年4月のある日

2023年3月27日

3月は転勤や進学などで慌ただしくなる時期です。それに伴い、矯正治療中の患者さんは今までかかっていた医療機関に通院することができなくなる事態が生じます。その場合は「転医」という対応を行います。その大まかな指針は日本矯正歯科学会の倫理規程に示されていますので、学会の会員はそれに基づき対応を行います。

転医の際の大切なポイントは三つあります。
一つは治療の継続を引き受けていただく先生が十分な技量を持っていることです。一月の院長一言に書きましたが学会の認定医を取得されていることが望ましいと思います。

二つ目は治療を継続するために必要な情報を次の先生へ確実に提供すること。情報とは顔や口腔の写真、レントゲン写真、歯列模型、診断や治療経過などを内容とする依頼状、などのことで、これらは担当医が作成して次の先生へ提供することになっています。資料作成は有料になる場合があります。

三つ目は治療費の精算です。矯正治療が保険診療で行われている場合は問題ないと思いますが、多くの矯正治療は保険外診療ですのでトラブルを起こすことがあります。その理由の一つは医療機関によって治療費が異なっている点です。特に都市部と地方とでの治療費は大きく違います。治療を受ける際の医療費はそれぞれの医療機関で設定された金額に従って支払わなければなりません。そのため、転医に際しては新たな追加料金が発生することがあります。二つ目の理由は返金です。高額の治療費を前納している場合は治療が途中であれば返金が行われます。その目安は学会の倫理規程に示されています。ただし、この返金の規定は日本矯正歯科学会と日本臨床矯正歯科医会にしかありません。これらの会員でない先生はこの規程を遵守することは難しいと考えられます。

もし将来的に転医する可能性がある場合は治療開始前の「矯正相談」時にこれらのことを先生に確認しておくことをお勧めいたします。

令和5年3月のある日

2023年2月27日

先週、日本臨床矯正歯科医会(日臨矯)の九州大会が福岡市で開催され、久しぶりに現地参加してきました。日本臨床矯正歯科医会とは矯正歯科を単科開業している臨床歯科医で構成されている学会です。毎年2月に支部が持ち回りで全国大会を主催しており、昨年は北海道支部が担当で札幌市にて開催しました。昨年まではコロナ感染症に対する警戒心が強くWeb形式で実施していましたが、今年はコロナ前と同規模の参加者でした。以前と違うのは参加者全員がマスクを着用していたことです。

五十周年記念大会ということで海外からの先生の招待講演や様々なシンポジウムが行われました。その中の一つに「中高年の矯正治療」というテーマのシンポがありました。40歳以上の矯正患者を対象とした会員のアンケート調査では中高年の矯正患者は年々増加しており、特に女性が多いとの結果でした。その背景は、国民の健康意識や審美的な意識が向上していること、健全な歯を持っている人が増加していることなどが挙げられていました。また、来院動機には審美的なことのほかに食べる、話すなどの口の機能の改善を求めて来られる方が多くなっているとのことでした。

ただし、それに伴い様々な全身的疾患や歯周病を有する場合も多くなることも治療上留意すべき点として挙げられていました。また、歯や歯の周囲組織、口唇などの状態も若年者とは異なることがあるため、治療のゴールの設定を十分に考慮する必要があるとの指摘がありました。

今後、ますます中高年の方の矯正治療の要望は増加すると考えられますので、それに対する矯正歯科医の準備も必要になってくることを強く感じさせられました。

令和5年2月のある日

2023年1月27日

「転医」は担当する先生との信頼関係が損なわれた時に考えざるを得ない解決方法の一つではあります。
しかしながら、一般的には治療を開始した歯科医師が継続して治療を進めることが無駄な時間を使わず最も効率的で高い治療成果が生まれます。

とは言っても、本人や家族の転勤や進学、就職などで治療が続けられなくなってしまう場合も起きてしまいます。
特にこれからの時期はそのような事態が多く起きる時期になってきます。その場合はきるだけ早めに担当の先生と相談することが大切です。

転医により新たな歯科医院で治療を続けなければならない場合はいくつかの要件を考えておくべきです。
まず一つ目は矯正治療の面で信頼のできる先生に診てもらうことです。
日本で最も信頼できる矯正歯科治療の資格認定制度として日本矯正歯科学会が認定する「認定医」や「臨床指導医」の制度があります。
これを取得するためには大学での基礎・臨床研修を数年間受けて修了しなければなりません。さらに、学会の審査で自らの治療症例が十分な治療成果であったと認められて初めて認定されます。矯正歯科医の専門医としての登竜門です。

令和5年1月のある日

2022年12月27日

矯正治療は数年におよぶ治療期間が必要です。
そのため、初めに検査・診断をした歯科医院で最後まで行うことがもっとも効率的な治療になると考えられます。

しかし、患者の転勤や進学、あるいは先生の病気や死亡、また両者間の不信・トラブルなどの理由で治療が続けられなくなることがあります。その場合はほかの歯科医院で治療を続けられるように「転医」という手続きを行います。
日本矯正歯科学会ではできる限り円滑に転医が行われるよう「倫理規程」にその項目があり、必要な手続きや治療費の返金を含めた精算などを示しています。

転医する場合はまず次に診療してくれる先生を探すことから始まります。
学会のホームページにある認定医リストを参考にすることをお勧めします。
次に、引き継ぐ先生が適切な治療を行いやすくするために必要な医療情報(診断や治療経過、顔や口の写真、レントゲン写真、模型など)を用意し、先生に提供する必要があります。患者さん自身が適当に歯科医院を探し、その先生に治療をお願いしてもうまく治療を進めることができないのが矯正治療のもつ難しい一面です。

令和4年12月のある日

2022年11月28日

日本矯正歯科学会への質問で最も多いものが治療内容と治療費のことです。
四年前に寄せられた質問の一例をご紹介します。

実際に矯正治療を受けている成人の方からの質問で、治療が始まってから四年が経っているのになかなか終わらない。初めは二年くらいで終わると言われたのにまだ続いている。今の状態にも不満なので、歯科医院を変えたい.その場合の治療費はどうなるのかという質問でした。

患者さんを納得させることのできる回答は難しく、頭を悩ませた質問でした。

一番は現在の担当医との信頼関係を回復して、治療をスムーズに進めることです。しかし、それが難しいとなれば歯科医院を変える、いわゆる「転医(転院)」ということをせざるを得ません。
学会の「倫理規程」にはこの転医に関する項目があり、必要な手続きやその際に生じる治療費の精算(返金の目安)などを示しています。
この矯正治療での転医について規定を設けている歯科医師の団体はおそらく日本矯正歯科学会のほか幾つかしかないため、学会の会員でなければ正しく転医手続きが行われることは難しいのが現状と思います。

令和4年11月のある日

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おびひろアート矯正歯科 院長 今井徹
おびひろアート矯正歯科
院長 今井徹

【所属学会】
日本歯科医師会
日本矯正歯科学会
アメリカ矯正歯科学会
日本臨床矯正歯科医会

【経歴】
1979年3月 北海道大学歯学部卒業
1983年3月 北海道大学大学院歯学研究科修了(歯学博士)
1983年4月 北海道大学歯学部助手
1985年3月 北海道大学歯学部附属病院講師
1990年7月 日本矯正歯科学会認定医
1991年5月 文部省在外研究員としてアメリカ留学
1991年11月 北海道大学歯学部講師
1992年9月 日本矯正歯科学会指導医
1993年4月 北海道大学助教授
2000年8月 おびひろアート矯正歯科を開業
2006年11月 日本矯正歯科学会臨床指導医(旧専門医)