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2024年11月30日

ご自分の歯並びやかみ合わせが気になっていて、矯正歯科治療を受けようかどうしようかと迷っている方は沢山おられると思います。そのような方が持っているいろいろな疑問をどこの誰に聞いたらいいのかよく分からない方も多いのではないでしょうか。

一般の方に対して矯正歯科の疑問に答えてくれる信頼性の高い窓口は現在のところ二つあります。一つは日本矯正歯科学会の「矯正歯科治療のQ&A」、もう一つは日本臨床矯正歯科医会の「矯正歯科何でも相談」です。
前者は学会の国内渉外委員会に所属する先生達が回答を作成し、学会の承認を得た上でそれぞれの質問にお答えしています。私もこの委員会に数年所属し、回答を作成していました。後者は矯正歯科を専門に開業されている先生方の学会なので、矯正歯科の専門医としての見地で質問にお答えしています。
いずれもそれぞれの学会のホームページから質問を送信することができます。

一般の方からの質問件数は5、6年前から急増しており、それぞれの窓口に年間4~500件の質問が届いています。そのほとんどは矯正治療でのトラブルに関するものです。最近の日本臨床矯正歯科医会の「矯正歯科何でも相談」でもっとも多いトラブルの原因は「術者の技量や資質に関する問題」で半分以上でした。
治療期間が長い、なかなか良くならない、十分な説明が聞けない、治療に不満がある、先生やスタッフの対応が良くない、などです。最近の特徴としてアライナー矯正についてのトラブルの増加が報告されています。
その次は「治療契約に関する問題」でした。治療の中止や転居などに伴う治療継続についての質問などがあります。

事前に矯正治療を受ける歯科医院を十分に調べておくことが重要になります。

令和6月11月のある日

2024年10月31日

毎年秋に日本矯正歯科学会の学術大会が開催され、今年は横浜のパシフィコ横浜が会場でした。6000千人以上の会員が所属する日本で一番大きな矯正歯科の学会なので、大きな会場が必要となります。

一昨年、学会の主導で「小児の不正咬合に関する大規模調査」という疫学調査が行われました。当院も調査に協力しました。その中間報告が発表されていましたので紹介します。
18歳以下の初診時矯正歯科患者を対象に、性別や年齢、不正咬合などの詳細を調査するもので、全国の29の大学病院や40の歯科診療所から回答が集まり、患者数は総数11.608人でした。

年齢別では6~12歳以下の小学生が70%でもっとも多く、80%が自費診療で20%が保険診療でした。大学病院の方が診療所よりも保険診療が若干多かったようです。性別では女子が57%、男子が43%で男女にそれほど差はありませんでした。

不正咬合の種類では叢生(乱ぐい歯)が37%でもっとも多く、次が上顎前突(出っ歯)の25%、下顎前突(受け口)の16%、過蓋咬合(深いかみ合わせ)の6%、開咬(上と下の歯が離れている)の3%でした。叢生は上顎前突や下顎前突の場合にも合併して生じますので、大きな比率を示しています。

叢生の次に多いのが上顎前突でした。三十年以上前の歯科矯正学の教科書には大学病院の8割近くが下顎前突であったと記載されていました。また以前は欧米では上顎前突が、日本では下顎前突の治療が多いと言われていました。ところが今回の調査では下顎前突が2割を下回っていたのに対して、上顎前突が下顎前突を上回っていました。このことは日本の矯正歯科治療が大きく変化していることの背景であると考えられます。

令和6月10月のある日

2024年9月30日

日本歯科専門医機構という社団法人があります。
専門医を取得するための条件の一つにこの機構が提供する共通研修の修得があります。
先日、その一つである「患者と医療者の情報共有」というタイトルの研修を受けました。講演はささえあい医療人権センターの理事長・山口育子先生で、「賢い患者」(岩波新書)の著者です。

患者からの相談でもっとも多いのが「ドクターへの不満」で次に「症状について」、「説明不足」、「治療方法」、「コミュニケーションの取り方」が続きます。
歯科の相談は全体の約5%で長時間を要する相談が多く、説明不足や治療費に関するものでは実際にトラブルに発展しているものが多いとのことでした。そのほか信頼できる歯科医探しや治療途中での転院問題もあるとのことです。

インフォームドコンセントの必要性や患者の自己決定権が重要であり、すべてを伝える時代になっている背景から「患者が決めること」と丸投げされることが多い。
しかし、実際には患者は先生の説明内容を十分に理解していないことも多いというのが現実です。
この状況を改善する方法としてインフォームドコンセントの成熟、すなわち先生からの十分な説明と患者の十分な理解を通じた患者・医療者間の情報の共有が重要になるとのことでした。
情報の共有のため、患者側としては自分が理解できていないことに敏感になり、うまく情報を引き出す工夫や思いを言語化する努力が必要になる。医療者側としては、患者の知りたいことやこちらが伝えたいことの情報の提供、伝え方を工夫し分かりやすくする、患者の理解の確認などをする努力が必要になってくるとのことでした。

日々の診療でついつい早口で説明してしまうことの多い自分にとっておおいに反省させられた研修でした。

令和6月9月のある日

2024年8月30日

世の中はまさにデジタル化が急速に進歩し、普及しています。官公庁から送られてくる連絡事項の書類にも「このQRコードを読み取って○○省のホームページをご覧ください」などといった案内を見かけることが多くなってきています。「スマホありき」が当たり前で、スマホを持っていないと重要な通達事項も読むことができなくなってしまう時代になりました。

ご存じの人も多いでしょうが、QRコードは日本で開発されたもので、1994年に自動車部品メーカーのデンソーが発明しました。今では世界中で使われており、近所の飲食店に行ってもスマホでコードを読み込み、飲食物の注文や精算をしています。

ほかの専門分野のことは分かりませんが、私が身を置く歯科矯正学の分野では教科書や専門書にQRコードが載ってきました。
歯科衛生士の教科書では、コードを読み込むと口の写真の撮影方法や歯型の取り方がスマホの画面に動画で解説されます。また、よく使われる矯正装置のリンガルアーチやマルチブラケット装置が立体的に映し出され、実物がなくても構造が理解しやすくなっています。

さらに、最近話題のマウスピース矯正治療の最新の専門書ではQRコードが沢山使われています。写真や文章では伝えることがなかなか難しい専門的な治療方法を理解させる役割を果たしています。

一人一人の患者さんの歯並びやかみ合わせがリアルに再現され、すべての歯がマウスピースなどによってどのように動いていって正常な歯並びになるのかをシミュレーション動画でくわしく映し出されています。まさに「百聞は一見にしかず」で、ビシュアルとか動画が有力な教育手段になっています。

令和6月8月のある日

2024年7月31日

昔のことですが、お酒とタバコが似合う大人の男性はカッコ良くて、モテる男のシンボルのように扱われていました。アラン・ドロンや田宮二郎のタバコを吸う姿に憧れた人も多かったのではなでしょうか。
けれども時代は大きく変わり、科学が進歩したために、酒は適量であれば「百薬の長」と言われていますが、タバコは「百害あって一利なし」とまでに疎まれる存在になってしまいました。

タバコはその成分(ニコチン、タール、一酸化炭素、アンモニアなど)による毒性やガン誘発が指摘されています。全身的な影響としては、呼吸器では肺ガンや慢性閉塞性肺疾患、喘息など、循環器では心室肥大、収縮性心不全、脳卒中などや糖尿病などがあります。

歯科分野とも関連が深く、歯周病では喫煙者は非喫煙者に比べて骨の吸収やポケットの形成が強く起きることによって2.5~6倍も進行しやすいと指摘されています。また、骨移植やインプラントの失敗率も高いとされています。

矯正歯科とタバコとの関連についての論文がありました。動物実験ですが、それぞれ電子タバコの成分と紙巻きタバコの成分と蒸留水を与えた三つのグループで、歯の移動量と破骨細胞(骨の吸収を起こす細胞)を測定した実験でした。

その結果、歯の移動量は蒸留水群がもっとも多く、電子タバコ群はその4/5、紙巻きタバコ群は2/3でした。破骨細胞の数は蒸留水群がやはりもっとも多く、電子タバコ群はその1/2、紙巻きタバコ群は1/4でした。
このことから、矯正治療による歯の移動は喫煙者の方が非喫煙者よりもゆっくりとした歯の移動になってしまい、治療期間が長期化してしまうことが予想されます。
やはり、矯正治療でもタバコはよろしくないようです。

令和6月7月のある日

2024年6月30日

毎年参加している学会が三つあります。

一つは2月に開催される日本臨床矯正歯科医会大会、二つ目は6月に開催の北海道矯正歯科学会、三つ目は10月あるいは11月に開催される日本矯正歯科学会です。一昨年前までは新型コロナ感染症のためにWebでの開催が主でしたが、昨年からはほとんどが対面開催に戻りました。

今までに数回、学会に参加するだけではなく治療した症例の報告や矯正歯科臨床に関する研究テーマで学会に発表してきました。コロナ禍前の2017年には北海道矯正歯科学会で、2018年には日本臨床矯正歯科医会大会で矯正治療の早期治療と二期治療(本格矯正治療)を比較検討した調査報告をしました。

今年、六年ぶりに北海道矯正歯科学会で口演を行いました。研究テーマは先月の「院長一言」で取り上げました大臼歯遠心移動装置の一つDistal Jet装置の当院での使用状況についてでした。

当院では2013年から歯科技工士の協力の下でDistal Jet装置を積極的に使用してきました。昨年までの延べ使用者数は190人以上で、成長期から成人までの広い年齢層の患者さんに使用していました。装置の装着期間は4~6か月がもっとも多く、1年以上という場合もありました。

装置の使用目的は歯を配列するスペースの増加、上下の六歳臼歯の前後関係の改善、そして上下前歯の前後関係の改善などが主なものでした。そのほかにヘッドギアの効果がなかなか出ない場合や前歯の萌出スペースを作る場合、欠損した大臼歯のかみ合わせを作る場合などもあり、多様なニーズに対応していたことが分かりました。

これからもこの装置のさらに効果的な使用方法を探求していくつもりです。

令和6月6月のある日

2024年5月31日

最近読んだ矯正歯科関係の本で勉強になった一冊があります。MheissenとKhanの"Orthodontic Evidence"という本で、10のテーマごとに最新の論文を集め要旨をまとめたものです。

その本の第一章が「Maxillary Molar distalization」、上顎大臼歯の遠心(後ろ方向)移動でした。このテーマが一番初めに書かれている本は今まで見たことがありません。このテーマが最近の矯正臨床でいかに重要な治療であるかを強く感じました。

当院では重度の乱ぐい歯(叢生)や出っ歯(上顎前突)の治療が増えているため、上顎大臼歯の遠心移動を行わなければならない場合が増加しています。そこでこの目的の矯正装置を調べました。

今までに発表された大臼歯遠心移動装置はヘッドギア、Carriere appliance、Celtin removable plate、Wilson bimetric distalizing arch、ペンデュラム装置、Frog appliance、マグネットを用いた装置、Distal Jet、Jones Jig、 First Class appliance、Keles slider appliance、Xbow appliance、GMDなど沢山ありました。前の四つは患者さんの協力が必要な装置で、残りはそれほど必要ありません。

治療を効率よく確実に進めたい立場としては、できるだけ患者さんへの負担が少なく、かつ意図する歯の移動が確実に、しかもほかの歯や歯肉などに副作用が生じない装置であれば大変有り難いことです。

当院ではその中の一つのDistal Jetという装置を使うことが多くなっています。作製は少々煩雑ですが、今のところ意図した歯の移動をしてくれる装置ではないかと考えています。
ただし、その治療効果を十分に導き出し、かつ効果を持続するための対応をさらに検討しなければならないと考えています。

令和6年5月のある日

2024年4月30日

生まれながらにして何本かの永久歯が形成されないことがあり、そのような歯を先天性欠如歯と言います。発生頻度は約10%と10人に1人に起こり、非常に頻度の高い先天異常といえます。

永久歯は中切歯から智歯まで上下左右でそれぞれ8種類ありますが、その中で先天性欠如の起こりやすい歯として側切歯(前から2番目)と第二小臼歯(前から5番目)の二種類と言われています。矯正治療を含めて歯科治療を行う場合にこの欠如した部位をどのように治療したらよいのかは難しい問題の一つになります。

よく行われる先天性欠如歯の歯科治療の一つが下顎第二小臼歯の欠如で、たいていは第二乳臼歯が脱落せずに残っていることが多い。その11 mm以上もの大きなスペースをどうするかは悩むところです。

いくつかの治療方法が考えられます。一つは可及的に乳臼歯を残すこと。ただいつまで乳歯が残るのかは不確定で、脱落した場合に対応が必要になります。二つ目は乳歯を抜去して義歯やブリッジ、インプラントなど人工歯で対応すること。その場合、患者さんの年齢、歯と周囲の歯周組織の状態などを考量しなければなりません。

もう一つの方法として歯を移動することによって欠如した歯のスペースを閉鎖することです。その場合の「歯の移動」は矯正装置を使って人為的に歯を動かすことが主になってきますが、11mmものスペースを移動させるには長い時間がかかり、工夫も必要になります。

もし歯の交換期など早期に治療を始めることができる場合、第一大臼歯が自然に前に動いてくるドリフトという現象を利用することも有効な方法の一つです。適切な時期としては第二大臼歯の歯根形成が開始されてからが目安と考えられています。そのためには先天性欠如歯の早期発見が重要になってきます。

令和6年4月のある日

2024年3月28日

診療室で毎日長い時間共に働いて治療の手助けをしてくれている歯科衛生士のことについて、ネットでの研修を受けました。実は歯科衛生士についてほとんど知らなかったことを痛感させられました。恥の上塗りになってしまいますが、忘れてしまわないように学んだことを書いておくことにします。

「歯科衛生士法」は1948年に制定され、アメリカの制度を参考にしました。初めは歯科医師の指示のもとに「歯および口腔の疾患の予防処置」を行うことが役務となっていました。その後、役務に「歯科診療の補助」、さらに「歯科保健指導」が加えられ、歯科衛生士の三つの役務が定められました。

歯科医師の医療行為には「絶対的歯科医行為」と「相対的歯科医行為」の二つがあり、前者は歯科医師自身が行わなければならないものですが、後者は歯科医師の指示によって第三者でも行うことが認められているものです。日頃、私がお世話になっている診療補助は後者の範囲ということになっています。

教育制度では専門学校の教育期間は2年でしたが、2005年から3年に増えました。さらに2009年には国家試験が設けられ、資格を持つにはこれに合格しなければならないことになりました。教育内容も日進月歩で充実したものになってきています。

医療関係者が守らなければならない義務の一つに「守秘義務」があります。医療を行う上で患者の病歴や検査内容は適切な診断や治療経過を把握する上で極めて重要な情報となります。これらの情報を他の人に漏らしてはならないという義務のことで、医師や歯科医師には厳重に課されていますが、歯科医衛生士や歯科技工士にも厳格に法律で定められているのです。

令和6年3月のある日

2024年2月29日

マルチブラケット装置を使用した本格矯正治療での通院間隔は一か月に一度です。
これは私が知っている限り50年以上前からこのように決められていました。
この根拠にはおそらく歯科矯正学での生力学の世界的権威であるバーストン先生が教科書で解説している有名な図からではないかと思っています。

それによると、治療による歯の動きはinitial phase、lag phase、postlag phaseの三段階に分けられます。
歯に矯正力がかかると歯は急速に動きます。これは歯根膜腔内での歯の変異によるものでlnitial phaseと言います。その後lag phaseといって歯の動きは一旦減少し、歯根膜の硝子化変性によるものと考えられています。その次に歯槽骨の吸収が起こり、歯はふたたび急速に動きます。これをpostlag phaseと言い、やがて歯の動きは止まっていきます。この三段階が約1か月で、おおよそ1 mmの移動量になります。

ところが今年1月のAJODOという外国の一流学術雑誌に面白い研究発表が掲載されていました。
上顎前突の第一小臼歯抜歯による本格矯正治療で通院間隔を一か月毎と二週間毎とに分けて行った場合の治療成果と治療期間の比較についての研究でした。

それによると、両グループとも治療成果は良好で有意な違いはありませんでした。ところが治療期間では一か月毎の場合は28か月であったのに対し、二週間毎の場合は22か月で6か月、約半年もの差があったということでした。これには驚きました。

治療回数は増加するものの、装置の装着時間が短くなることは患者さんにとって有り難いことでしょう。ただし、どうして治療期間が大幅に短縮されたのかについての詳細な検討は明らかでないため、慎重に対応する必要があると思います。

令和6年2月のある日

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おびひろアート矯正歯科 院長 今井徹
おびひろアート矯正歯科
院長 今井徹

【所属学会】
日本歯科医師会
日本矯正歯科学会
アメリカ矯正歯科学会
日本臨床矯正歯科医会

【経歴】
1979年3月 北海道大学歯学部卒業
1983年3月 北海道大学大学院歯学研究科修了(歯学博士)
1983年4月 北海道大学歯学部助手
1985年3月 北海道大学歯学部附属病院講師
1990年7月 日本矯正歯科学会認定医
1991年5月 文部省在外研究員としてアメリカ留学
1991年11月 北海道大学歯学部講師
1992年9月 日本矯正歯科学会指導医
1993年4月 北海道大学助教授
2000年8月 おびひろアート矯正歯科を開業
2006年11月 日本矯正歯科学会臨床指導医(旧専門医)