«  2025年12月 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31
2025年12月 1日

今月は先月の続きで「文献検索」の「今」を取り上げます。地方都市に住んでいるので歯科歯科学に関する専門雑誌のある図書館はありません。そのため入所が難しい研究論文はあきらめていました。

ところが今はインターネットの時代。PCやスマホで知りたいことをネットに打ち込むと、一瞬にしてありとあらゆる情報が手に入れることができる時代です。しかも、そのたびに料金を払う必要がありません。なんと夢のような時代ではないでしょうか。

私の関係する歯科矯正学の分野でもインターネットの活用が進んでいます。「文献検索」もその一つになっています。かつては図書館に行って雑誌を調べ、載っているページを調べ、コピーを取っていました。今はそんな苦労をする必要はありません。

PCの前に座ったままでGoogleを開き、検索用語を入力し、リターン。そうすると、アッという間に必要な論文や、それに関連する論文がズラリとたくさん画面に出てきます。出てきた青字で書かれた論文をマウスでクリックすると、専門雑誌のサイトにつながり、論文を読むことができます。しかも、日本では手に入らない雑誌の論文も読むことができるようになっています。矯正に関する専門雑誌がこんなにたくさんあることは知りませんでした。

歯科矯正学の二大雑誌である「The Angle Orthodontist」は昨年から、「American Journal of Orthodontics and Dentofacial Orthopedics」は今年からインターネットで雑誌を調べることができるようになりました。しかも百年以上前の創刊号からマウスをクリックするだけですぐに読むことができます。さらに前者の雑誌は無料で保存、印刷ができます。学術情報が大量に、簡単に、短時間に手に入る時代になりました。

令和7年11月のある日

2025年10月30日

大学では矯正歯科の診療のほかに研究も重要な仕事の一つでした。日々、診療をしていると「これはどうなんだろう」、「今までに何が分かっているのだろう」、「何かもっと良い方法はないのか」、「もしかしてまだ分かっていないことではないのだろうか」、などいろいろと疑問が浮かんできます。その答えを見つけていくのが研究の面白いところです。

今まで携わってきた研究には、矯正治療の対象である不正咬合の頻度、不正咬合の発音や筋肉への影響、不正咬合と顎関節症の関係、矯正治療後や外科手術後の後戻りの状態、歯の移動による歯根への影響などがありました。今でもまだまだ分かっていないことが多く残っています。

研究を始める時にはまずそのテーマに関する研究がいつから行われ、どういうことが明らかになっていて、何がいまだに分かっていないのか、今までどんな方法で研究されているのか、などをあらかじめ調べておかなければなりません。これらの詳細な内容は教科書からはほとんど手に入りません。専門雑誌に掲載されている研究論文を見つけて、読んで、調べなければなりません。この作業を「文献検索」といい、研究にとって重要な仕事の一つになります。

たくさんの専門雑誌を個人が持っていることはないので、必要な論文を入手するために歯学部の図書館に行って雑誌を探します。無ければほかの学部の図書館や全学中央の図書館に行って探します。それでも無い場合は雑誌を所蔵している大学などの図書館を係の人に調べてもらい、あった時にはそのコピーを送ってもらうよう手続をします。手に入るまでには終日~数か月かかってしまうことがありました。これがかつての文献検索です。

令和7年10月のある日

2025年9月24日

先月書きましたが、矯正治療の治療期間が長い理由は歯の動きが遅いことにあります。歯に矯正力を加えることで周囲の骨を吸収させたり、添加させたり(リモデリング)して歯を動かしますが、普通は一か月に1mm位しか動きません。早く歯を動かすことができれば治療期間も短くなります。そのための研究が幾つかあります。

一つは遺伝子治療です。骨のリモデリングでの骨形成因子や血管内皮増殖因子に遺伝子を導入します。動物実験では歯の移動が150%加速したという結果が報告されています。

つぎに外科的手法で皮質骨切開術、骨切除術、ピエゾ切開術などがあります。一時的に骨の代謝を増加させますが、疼痛、腫脹、感染などのリスクも伴います。

歯に機械的振動を加えることにより歯はより早く動くということで、AccleDentという製品が外国で販売されています。非侵襲的ですが、残念ながら研究では有意な効果は確認されていません。

磁場を利用する手法があり、静的磁場やパルス磁場を歯に加えて骨形成を増加させるという方法です。しかしながら臨床的根拠は限定的で、人体への影響は不明ということです。

低出力レーザーを照射することで骨のリモデリングを促進する方法があります。この方法は多くの臨床研究でも歯の加速は確認されています。しかしレーザーの波長、出力密度など標準化されたガイドラインは確立されていません。

そのほかに薬物(プロスタグランディン、副甲状腺ホルモン、ビタミンD類似体、モノクロナール抗体、成長ホルモン)や幹細胞ベースの治療など多方面からのアプローチが行われています。これからの科学の発展に期待が高まります。

令和7年9月のある日

2025年9月 1日

矯正治療の大きな問題点の一つは治療期間が長いことで、年単位の時間を必要とします。その理由は歯の動きにあります。

矯正治療ではいろいろな装置を使って、歯に力(矯正力と言います)を加えることで歯を動かします。よく使われているマルチブラケット装置(ワイヤー矯正)でも、今話題になっているアライナー(プレート)矯正でも歯に力を加えて歯を動かすメカニクスは同じです。

矯正治療による歯の移動は矯正力という機械的刺激が歯根の周囲にある歯根膜と歯槽骨に加わることによって、骨の吸収と添加というリモデリングが生じ動きます。弱すぎる力では歯は動きませんし、強すぎると組織破壊が生じてしまうので、適切な大きさの力が必要です。それでも一か月に歯の動く距離はせいぜい1mmです。

この距離を大きくすれば治療期間も短縮することができます。そのためには歯の動くメカニズムを詳しく知らなければなりません。歯に矯正力を加えると歯によって押される側(圧迫側)の骨には骨を吸収する破骨細胞が、反対側(牽引側)には骨を添加する造骨細胞ができることは以前から分かっていました。しかし、この破骨細胞や造骨細胞がどのようにして発生してくるのかは歯根膜を解剖して細かく観察してもなかなか解明することができませんでした。

近年のめざましい生物学の発展の一つに分子生物学という分野があります。歯科矯正学もこの研究手法を取り入れて、歯の移動を起こすメカニズムの解明が進んでおり、その研究結果がさまざまな研究機関から発表されています。今はまだ試験管や実験動物の段階ですが、次の段階ではそれら研究成果を実際の矯正治療に取り入れることができるようになります。近い将来、短い治療期間の治療が実現できることを心待ちにしています。

令和7年8月のある日

2025年8月 1日

普段観ているテレビや新聞はその多くが不安や心配を感じさせる記事が多いように思います。

海外では数多くの民間人が尊い犠牲となっているウクライナ紛争やイスラエルとパレスチナとの紛争。我が国の近くでは台湾問題があり、北海道との関連では北方領土問題がいまだ何の進展もないままときどき取り上げられます。

経済面ではやはり将来を不安にさせるようなトランプ政権による相互関税、いわゆる「トランプ関税」です。主要な輸入品に対し高額な関税がかけられると、輸出で利益を得ている日本企業には大きな打撃となります。

国内ではやはりインフレ、まさにコストプッシュインフレの状態です。原材料の高騰や人手不足などで食品などの必需品が頻繁に値上がりしています。それにもかかわらず賃金は追いついていません。

このような報道からは幸せを感じることはできません。

それに対して、明るい話題はやはり大谷選手の超人的な活躍です。一人の日本人が本場大リーグでアメリカ人も狂喜乱舞させながらいろいろな記録を塗り替えています。常に前向きで直向きなプロの仕事ぶりと礼儀正しい姿勢には教えられることが多くあります。

自分の身近にも「幸せ」を感じることがあります。矯正治療を通して改善していく歯並びやかみ合わせを患者さまは実感されています。そして、長い治療期間にもかかわらず最後まで続けられたことで達成する満足感や幸福感を手にした患者さまから喜びの言葉をいただきます。このことが自分にとって何よりの元気の源であり、幸せを感じる瞬間です。矯正専門医として、また明日も頑張って全力投球しようと思う貴重な機会です。 
  
令和7年7月のある日

2025年6月30日

一般集団を対象とした歯科に関する全国規模の調査に5年毎に行われる「歯科疾患実態調査」(厚生労働省)というものがあります。それにはむし歯や歯肉、口腔清掃の状態のほかに歯並びやかみ合わせ(不正咬合)についても調査対象としています。

不正咬合に関して2010年の調査ではもっとも多いのが叢生(乱ぐい歯)で43.1%、次が上顎前突(出っ歯)で32.9%でした。2016年では上顎前突が40.1%、叢生が26.4%と順位は逆転していましたが両者がもっとも多い不正咬合でした。

最近の矯正患者を対象とした全国規模での調査が日本矯正歯科学会で行われ、昨年の学会で発表されていました。それによるともっとも多いのが乱ぐい歯で37%、次が上顎前突で25%でした。今の日本では一般集団も矯正患者もどちら多い不正咬合は乱ぐい歯と上顎前突ということになっているようです。

当院でも治療に訪れる患者さんに変化があるように以前から感じていましたので、その実態調査を行ってみました。対象に2010~2013年と2020~23年の各4年間に診断した患者さんとしました。

それによると、乱ぐい歯の状態がやや重度になってきていること、そして上アゴと下アゴの位置関係が上顎前突の関係、つまり上アゴは前方に、下アゴは後方に位置している場合が多くなってきていることが分かりました。比率では叢生がもっとも多く、次が上顎前突でした。それに対して、前回話しました反対咬合(受け口)は減少していることも分かりました。

この半世紀の間に矯正歯科を取り巻く状況に変化が起きており、私達矯正歯科医も以前とは違った対応をしていかなければならなくなっていると考えています。

令和7月6月のある日

2025年5月30日

矯正治療で治す対象となるお口の状態を「不正咬合(ふせいこうごう)」といいます。歯科での別の分野では「咬合異常」とも言います。最近の学校の歯科検診では従来までのむし歯や歯肉の状態、プラークの付着の程度、アゴの動きなどを診ることのほかに不正咬合の有無もチェックしています。

不正咬合は大きく2種類に分けられます。一つは上と下の歯の噛み合わせの異常、もう一つは上下それぞれの歯並びの異常です。

噛み合わせの異常では出っ歯(上顎前突)や受け口(下顎前突、反対咬合)が代表的なものです。そのほかに上と下の前歯が開いている開咬(かいこう)、その逆に上の前歯が下の前歯を半分以上おおっている過蓋咬合(かがいこうごう)があります。歯並びの異常では凸凹な歯並びや八重歯になっている乱ぐい歯(叢生(そうせい))や歯と歯の間にすき間があるすきっ歯(空隙歯列弓)があります。

このように不正咬合にはいろいろな種類がありますが、中でも矯正治療を受けてでも治したい、良くなりたいと考えたり、今の状態に不便や不都合を感じたりするものが幾つかあります。

少し古い時代の調査になりますが、1970~1990年代に各大学病院の矯正歯科で調査した報告が7つ発表されています。それによるともっとも多い不正咬合は下顎前突で、全体の約40%を占めていました。次は叢生で20~30%、その次が上顎前突で10~20%でした。

その頃の北海道大学病院もほかの大学病院と同じく下顎前突の患者さんが多く、北海道は特に下顎前突が多いとも言われていました。その理由として子供のむし歯が多いから、と教えられたように記憶しています。けれど残念ながらその科学的根拠が発表されたことはいままでにはありません。      

令和7月5月のある日

2025年4月28日

医科や歯科での専門医とは「それぞれの診療領域において高度な知識と技術を持ち、患者に標準的で質の高い医療を提供できる医師や歯科医師」で、専門医制度の目的は「患者が安心して適切な医療を受けられるように、医師の専門性を明確にする目的で設けられています。」ということで、一般的には認定医より上位の資格の扱いで、現在は数十に上る分野の専門医が存在します。

2000年頃にそれぞれの学会が独自の専門医制度を設立し、専門医を認定してきました。歯科においても歯科麻酔や口腔外科学会を皮切りに小児歯科や歯周病などの専門医が誕生しました。

矯正歯科でも日本矯正歯科学会が専門医制度を設立し、2006年から専門医を認定してきました。私もその第一回専門医の認定を受けました。ところが、残念ながら日本矯正歯科学会の制度はある問題で厚生労働省からの認可が下りず、2014年に設立された日本専門医機構にその責務が移行しました。

このような矯正歯科の専門医制度の変遷の影響で「専門医」の名称も2021年には「臨床指導医」に変更されました。さらに、2024年にはその名称から「指導医」が抹消され、単に「臨床医」になってしまいました。

どのような経緯でこのように名称が変更になったのかについては一会員までは届いておらず、ホームページを見て初めて知りました。ある後輩が言っていました。普通、「臨床医」とは大学を卒業し、国家試験を合格したすべての歯科医師に対して呼ばれる名称なので、認定医や指導医よりも上位にある資格とはとても思われません。その通りかも、と残念に感じています。  

令和7月4月のある日

2025年3月31日

アライナー矯正についての最近の記事に次のようなことが書かれていました。
アライナー矯正の需要は伸びており、日本の市場は世界のトップ5に入る。一方で、安易に開始してトラブルとなっている事例も増加しており、歯科医師会や学会への問い合わせが絶えない。そのためアライナー矯正の特質を理解しておく必要があります。

この矯正治療はあらかじめ歯をどのように移動すればいいのかをコンピューターで予測し、それに基づき模型を作製、それを使ってマウスピースを作製します。
今までのさまざまな研究から、予測した歯の移動と実際の状態とを比較した「予測実現性」という数値が発表されています。それによると、実現性の高い順から歯の遠心移動(後ろに動かす)が85%、傾斜移動が82%、側方拡大が70%、捻転(回転)が62%、トルク(歯根の移動)が40%、挺出(歯を伸ばす)が30%で平均は60%でした。残念ながら100%近くの歯の移動は困難ということです。

現状でのアライナー矯正の適応症は抜歯をしない軽度な乱ぐい歯(叢生)や出っ歯(上顎前突)、受け口(反対咬合)、すきっ歯(空隙歯列弓)です。抜歯や厳密な大臼歯のコントロールを必要とされる重度の叢生、上顎前突、反対咬合、開咬などは適応症ではありません。

アライナー矯正にするかどうかを判断する場合は透明なマウスピースで目立たないし、取りはずしができるので楽そうな治療ということだけで決めてはいけません。
自分の状態が適応症なのか、それを正しく診断することのできる担当医は十分な矯正治療の知識と技量、経験を持っている歯科医師なのか、そして数年にわたり正確に歯が動くための時間マウスピースを装着し続ける意志を持っているのか、などを考えてみてください。

令和7月3月のある日

2025年2月28日

今月は矯正歯科の話をお休みして、2月4日に帯広十勝を襲った日本一のドカ雪について取り上げます。
「ドカ雪」とは一時に多量に降り積もる雪のことで、冬の北海道では時々起こります。
しかし、帯広市の今回のドカ雪は半端なものでなく、12時間降雪量が124センチと観測史上日本一を記録しました。ちなみに、第2位は本別町の109センチ、第3位は芽室町の107センチで十勝が独占しました。

私は半世紀以上にわたり北海道で暮らしていますがこのような積雪を見たのは初めてです。
前日の3日夕方から雪が降りはじめ、4日の昼過ぎまで大気はまっ白になったままでした。窓から見た街は人や車の通る道は消え、平日にもかかわらず人も車もほとんど見当たりません。街全体が死んだような静寂に包まれていました。

診療の予約が入っていたので、自宅から診療所のあるビルまで道なき道をズボズボと雪に足を突っ込みながら歩いて進みました。途中、駅前の道幅の広い道路では埋まっている車や動けなくなっている車の周りを除雪したり、押し出そうとしている人がいました。当然ながらこの日は休診です。

新聞によると、このドカ雪は温暖化が原因とのこと。気温の上昇により、本来は北極周辺にとどまる巨大低気圧「極(きょく)渦(うず)」が分裂し、その一部が北海道に南下したため、大陸から寒気を運ぶ偏西風が南に大きくずれました。寒気が離れたために道東沖の海面水温は平年より6度高くなり、接近していた低気圧は大量の温かく湿った空気を含んでいたため、帯広にドカ雪をもたらしたとのことでした。

今年の冬は例年になく雪が少なく、雪かきに苦労することのない過ごしやすい冬だと思っていました。でも世の中、そう都合よくはいかないものです。

令和7月2月のある日

Archives

comments

trackbacks

Powered by
本サイトにて表現されるものすべての著作権は、当クリニックが保有もしくは管理しております。本サイトに接続した方は、著作権法で定める非営利目的で使用する場合に限り、当クリニックの著作権表示を付すことを条件に、これを複製することができます。

おびひろアート矯正歯科 院長 今井徹
おびひろアート矯正歯科
院長 今井徹

【所属学会】
日本歯科医師会
日本矯正歯科学会
アメリカ矯正歯科学会
日本臨床矯正歯科医会

【経歴】
1979年3月 北海道大学歯学部卒業
1983年3月 北海道大学大学院歯学研究科修了(歯学博士)
1983年4月 北海道大学歯学部助手
1985年3月 北海道大学歯学部附属病院講師
1990年7月 日本矯正歯科学会認定医
1991年5月 文部省在外研究員としてアメリカ留学
1991年11月 北海道大学歯学部講師
1992年9月 日本矯正歯科学会指導医
1993年4月 北海道大学助教授
2000年8月 おびひろアート矯正歯科を開業
2006年11月 日本矯正歯科学会臨床指導医(旧専門医)