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2024年4月30日

生まれながらにして何本かの永久歯が形成されないことがあり、そのような歯を先天性欠如歯と言います。発生頻度は約10%と10人に1人に起こり、非常に頻度の高い先天異常といえます。

永久歯は中切歯から智歯まで上下左右でそれぞれ8種類ありますが、その中で先天性欠如の起こりやすい歯として側切歯(前から2番目)と第二小臼歯(前から5番目)の二種類と言われています。矯正治療を含めて歯科治療を行う場合にこの欠如した部位をどのように治療したらよいのかは難しい問題の一つになります。

よく行われる先天性欠如歯の歯科治療の一つが下顎第二小臼歯の欠如で、たいていは第二乳臼歯が脱落せずに残っていることが多い。その11 mm以上もの大きなスペースをどうするかは悩むところです。

いくつかの治療方法が考えられます。一つは可及的に乳臼歯を残すこと。ただいつまで乳歯が残るのかは不確定で、脱落した場合に対応が必要になります。二つ目は乳歯を抜去して義歯やブリッジ、インプラントなど人工歯で対応すること。その場合、患者さんの年齢、歯と周囲の歯周組織の状態などを考量しなければなりません。

もう一つの方法として歯を移動することによって欠如した歯のスペースを閉鎖することです。その場合の「歯の移動」は矯正装置を使って人為的に歯を動かすことが主になってきますが、11mmものスペースを移動させるには長い時間がかかり、工夫も必要になります。

もし歯の交換期など早期に治療を始めることができる場合、第一大臼歯が自然に前に動いてくるドリフトという現象を利用することも有効な方法の一つです。適切な時期としては第二大臼歯の歯根形成が開始されてからが目安と考えられています。そのためには先天性欠如歯の早期発見が重要になってきます。

令和6月4月のある日

2024年3月28日

診療室で毎日長い時間共に働いて治療の手助けをしてくれている歯科衛生士のことについて、ネットでの研修を受けました。実は歯科衛生士についてほとんど知らなかったことを痛感させられました。恥の上塗りになってしまいますが、忘れてしまわないように学んだことを書いておくことにします。

「歯科衛生士法」は1948年に制定され、アメリカの制度を参考にしました。初めは歯科医師の指示のもとに「歯および口腔の疾患の予防処置」を行うことが役務となっていました。その後、役務に「歯科診療の補助」、さらに「歯科保健指導」が加えられ、歯科衛生士の三つの役務が定められました。

歯科医師の医療行為には「絶対的歯科医行為」と「相対的歯科医行為」の二つがあり、前者は歯科医師自身が行わなければならないものですが、後者は歯科医師の指示によって第三者でも行うことが認められているものです。日頃、私がお世話になっている診療補助は後者の範囲ということになっています。

教育制度では専門学校の教育期間は2年でしたが、2005年から3年に増えました。さらに2009年には国家試験が設けられ、資格を持つにはこれに合格しなければならないことになりました。教育内容も日進月歩で充実したものになってきています。

医療関係者が守らなければならない義務の一つに「守秘義務」があります。医療を行う上で患者の病歴や検査内容は適切な診断や治療経過を把握する上で極めて重要な情報となります。これらの情報を他の人に漏らしてはならないという義務のことで、医師や歯科医師には厳重に課されていますが、歯科医衛生士や歯科技工士にも厳格に法律で定められているのです。

令和6年3月のある日

2024年2月29日

マルチブラケット装置を使用した本格矯正治療での通院間隔は一か月に一度です。
これは私が知っている限り50年以上前からこのように決められていました。
この根拠にはおそらく歯科矯正学での生力学の世界的権威であるバーストン先生が教科書で解説している有名な図からではないかと思っています。

それによると、治療による歯の動きはinitial phase、lag phase、postlag phaseの三段階に分けられます。
歯に矯正力がかかると歯は急速に動きます。これは歯根膜腔内での歯の変異によるものでlnitial phaseと言います。その後lag phaseといって歯の動きは一旦減少し、歯根膜の硝子化変性によるものと考えられています。その次に歯槽骨の吸収が起こり、歯はふたたび急速に動きます。これをpostlag phaseと言い、やがて歯の動きは止まっていきます。この三段階が約1か月で、おおよそ1 mmの移動量になります。

ところが今年1月のAJODOという外国の一流学術雑誌に面白い研究発表が掲載されていました。
上顎前突の第一小臼歯抜歯による本格矯正治療で通院間隔を一か月毎と二週間毎とに分けて行った場合の治療成果と治療期間の比較についての研究でした。

それによると、両グループとも治療成果は良好で有意な違いはありませんでした。ところが治療期間では一か月毎の場合は28か月であったのに対し、二週間毎の場合は22か月で6か月、約半年もの差があったということでした。これには驚きました。

治療回数は増加するものの、装置の装着時間が短くなることは患者さんにとって有り難いことでしょう。ただし、どうして治療期間が大幅に短縮されたのかについての詳細な検討は明らかでないため、慎重に対応する必要があると思います。

令和6年2月のある日

2024年2月 5日

矯正治療ではレントゲン写真を頻繁に撮影します。
矯正治療で撮影する主なレントゲン写真は顔を写すセファロ写真と歯を写すオルソパントモ写真で、診査や診断にとって必須な写真です。

先日、ある男子の患者さんのオルソパントモ写真を撮りました。それを見て大変ビックリしました。その写真には実際に生えている歯以外に少なくとも3本の歯が写っていました。右上の中切歯と側切歯の間に1本、左上の側切歯と犬歯の間に1本、そして右下の側切歯と犬歯の間に1本、歯の形そっくりなものが写っているのです。

もちろん、患者さんの歯型と照らし合わせながら何度も見返しましたが、写真には間違いなく歯らしきものがあるのです。しかも、歪んでたり、ブレたり、ぼやけたりすることなく、隣の歯と並んで生えているように写っているのです。スタッフにも見せましたが同じように見えていたので、私の目のせいではないようです。

撮影機械のメーカーにさっそく伝え点検してもらいました。来られた方も今までこのような写真は見たことはないとのことで、本社の専門家に問い合わせていました。いろいろ検討したところ、機械の問題ではなく、患者さんの顔の動きによるものではないかとのこと。パントモ写真は顔の周りをX線官とフィルムとが回転しながら撮影されます。その時に顔がブレると像は歪みますが、今回はそのような像ではないため、顔が短い時間にX線菅と同じ方向に動いたことにより、隣の歯と同じ形の歯が並んで生えているように写されたのではないか、との推論でした。ただし、専門家の方も今までこのような写真を見たことはないとのことでした。

なんとも不思議な臨床経験をしましたが、世の中にはまだまだ知られていないことが起きるようです。

令和6年1月のある日

2023年12月28日

二年ほど前から少しずつ物が見えづらくなっていました。眼科で診てもらったところ「白内障」と診断され、目薬を一日に三回点眼していました。担当の先生には「良くはなりませんが、進行を遅くするためです」と言われていました。

今年になってさらに見えづらくなり、目を細くしたり、近くに顔を寄せてみたりするようになっていました。今まで幸いなことに眼鏡のお世話にはなったことがなかったのですが、いよいよこれは駄目かなと覚悟して久しぶりに眼科を受診した。

視力検査をしたところ右目は0.7,左目は0.3で、以前は1.0と0.8だったのが悪化していました。詳しく診察していただいたところ白内障が進んだためで、近視や遠視ではないとのことでした。このままでは免許更新が通らないと言われたので、決心をして手術を受けることにしました。

通常は片目ずつ一週間おきに行うのですが、先生のご厚意で間隔を短縮していただき、手術五日後に職場復帰ができました。レンズに慣れるまで一年ほどかかるそうですが、眼帯を外した直後から物が明るく良く見えるようになりました。視力検査では両目とも1.0と以前の状態に戻りました。担当の先生から「驚異的な回復で、百歳まで保ちますよ」と励まされました。嬉しい限りでした。

人は五感、視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚があり、どれも普段の生活には欠かせない感覚です。歯科医療の仕事も同じですが、中でも特に視覚は最も重要な感覚です。矯正歯科の場合、口の中の歯や歯肉を診たり、矯正装置を調整したりと細かな作業をする場合には注意深く見ながら進めなければなりません。視覚が低下するとそのような作業がしづらくなってしまいます。目は大切な器官の一つだと改めて実感しました。

令和5年12月のある日

2023年11月27日

11月1~3日新潟市で日本矯正歯科学会の学術大会があり、参加してきました。
この学会の大会は年に一度、秋に行われています。今年はコロナ開けと言うこともあり、沢山の参加者でした。例年、国内外からの先生による講演やセミナー、学術発表があり、矯正歯科では国内最大の学術大会です。

海外講演の一つにコネチカット大学(米国)の名誉教授であるRavindra Nanda先生の講演がありました。講演の趣旨は「科学的根拠に基づく矯正歯科治療を行うことが重要である」ということで、いろいろな事例をお話されました。

矯正歯科治療は年単位の長期にわたる一連の歯科治療です。
長期間の治療になる理由の一つに、歯を安全に動かすためにはゆっくりと時間をかけなければならないことがあります。
一般的に使われているマルチブラケット装置では通常月に一度の通院間隔で、その間に歯が移動する距離は1 mm程度です。そのため平均2~3年の治療期間が必要になります。
歯の移動が早くなれば治療期間の短縮に結びつくので、その目的でいろいろな研究や器械が発表されています。

歯を早く移動させる方法の一つとして歯に微振動を加えるという方法が提唱され、実際にハンディな振動器械が海外で販売されました。一流の学術雑誌にもその振動器械の広告が出ていました。

ところがその後、この器械を使用した実験がいくつか発表され、歯の微振動には歯の移動の促進させる効果がないことが明らかになりました。後日談として、器械を販売した会社は大儲けをした後、販売を中止したとのことでした。
「矯正治療の新しい装置を販売するには、その前に十分な臨床実験を行って検証しなければならない」とNanda先生は力説していました。

令和5年11月のある日

2023年10月27日

先月14日、歯科医師として初めて「集団的個別指導」というものを受けてきました。
保険診療を行う医師や歯科医師は保険診療の正しいあり方や保険点数改正について厚生局の開催する「集団指導」を受講し、適切な情報を取得することが義務づけられています。
今までに数回、受講していました。今回はそれと全く違っていました。

当日、開催会場である会議室に入ると主催者側の役員の方が数名座っていて、受講者は十数人しかいませんでした。この状況で何となく事の重大さ、深刻さを感じ始めました。

この集団的個別指導は今までの集団指導とは違います。まず、その対象者は保険請求が平均請求点数よりも高いこと、今までに個別指導を受けたことが無いものということでした。その目的は今まで通りに保険請求を続けるとさらに厳しい「指導」や「監査」を受けることになるとの警告ということと解釈しています。

矯正歯科の中には保険診療が適応となる場合があります。一つは重度の不正咬合である「顎変形症」に対する外科手術を伴う矯正治療。もう一つは厚労大臣が認める61疾患の先天異常、例えばダウン症や唇顎口蓋裂などの矯正治療です。
矯正歯科の保険点数は一般歯科に比べて点数が高い場合が多いため、たとえ来院日数が少なくても月毎の保険請求では点数が高くなってしまうことがあります。当院でも数は少ないですがこれらの保険診療を行っていますので、このことが対象となった理由ではないかと思っています。

いずれにしても、さらなる指導の対象にならないように今までに行ってきた保険診療をしっかりと見直し、請求内容や保険カルテ、必要な書類などの適切な整備を行う作業を進めていきたいと思っています。

令和5年10月のある日

2023年9月28日

先月は新しい知識を得る方法として学会や講習会、テキストブックなどを挙げました。今回はもう一つの学術雑誌について話します。

歯科矯正学や矯正歯科臨床に関して国際的にもっとも権威があり、長い歴史を持っている雑誌が二つあります。
一つはAmerican Journal of Orthodontics & Dentofacial Orthopedics、略してAJO-DOで今年で164巻を数え、毎月刊行されています。
もう一つはThe Angle Orthodontist、略してAOで今年で93巻になり、こちらは隔月の刊行になっています。
どちらの雑誌も毎回、十数編の論文が掲載されているので、それらを読むと最新の知見やこれからの研究や臨床の方向や情報などを知ることができます。そのため、世界中の多くの矯正専門医がこれらの雑誌を読んで研鑽しています。

数十年前、大学の医局に入局した頃はほとんどの医局員が個人購読を行っていました。
毎週行われる医局会ではこの二つの雑誌から面白そうな論文を選び出し、担当の先生が内容をまとめて発表し、みんなで議論すると言う抄読会を行っていました。
このような活動を通じて新しい研究を知るばかりではなく、論文とはどのように構成されているのか、何を書かなければならなのか、そしてさまざまデータをどのように処理したらいいのかなど、駆け出しの研究者にとってはとても勉強になった時間でした。

今も続けて読んでいますが、大概はAbstractを読む程度で、よほど興味があった場合に全文を読んだりしています。
最近分かったことですが、AOの雑誌は有料購読しなくてもネットで無料で読むことができるようになっていました。しかも、瞬時に和訳もしてくれるという大変有り難い機能もついています。インターネットやAIの進化にはつくづく驚かされます。

令和5年9月のある日

2023年8月28日

どのような分野もみな同じだと思いますが、学問や研究は常に進歩を続けています。
矯正治療に深く関係する歯科矯正学の分野も日々新しい課題や知見が発表されています。
それらすべてが明日の診療に必ず役立つものである、というとそうではありません。けれども近い将来、役に立つ場合が多いことはよく経験することです。

開業医は毎日の診療が仕事なので、研究や教育機関で聴講することは難しいです。
そのため、新しい知識を得る手段の一つは学会や学術セミナー、講演会などに出席して勉強することです。学会は年に数回開催され、そこで講演や研究発表、症例供覧などを見聞きしています。そうすることで期待していたことのほかにも、考えてもいなかった刺激を受けたりもします。

コロナパンデミック前には毎年開催されていた矯正治療の講演会に私は毎年参加していました。世界的に著名なアメリカの矯正専門医で、マルチブラケット装置の最新治療法と言われているシステムを構築されたマクロフリン先生の講演会です。
参加する度に日常の治療で役立つことを学び、新たな意欲を沸かせられていました。
残念ながら、今のところ開催の通知はありません。早く再開してほしいと思っています。

勉強するもう一つの方法は発刊されているテキストブックや定期刊行されている学術雑誌を購読することです。
テキストブックは非常に充実した内容のものが海外で多く出版されています。
先ほどのマクロフリン先生の著書はすでに6冊以上出版されています。また、成長期の矯正治療である早期治療の本も数多く出版されており、最近では800ページ以上もの分厚い大著が出版されました。
英語という難敵に挑戦している日々です。

令和5年8月のある日

2023年7月27日

5月の「院長一言」でお話ししました発音障害の続きで今回は「滑舌が悪い」ことについて考えてみたいと思います。

患者さんに「何か話しづらいことや聞き取られづらいことはありますか?」と質問すると、前回取り上げたように「サシスセソが言いづらい」とか「タチツテトが言いづらい」ということをよく聞きました。ところが最近は「ある特定の発音がしづらいということではないが、全体に滑舌が良くない」と答える患者さんが増えている気がしています。

私は大学院の研究テーマとして「不正咬合と発音障害」を勉強しました。数十年前の当時には構音(発音)障害に「滑舌が悪い」という現象は含まれてはおらず、そのような「構音障害」の種類はなかったように思います。

一般に構音障害とは声が出ない、はっきりと発音できない、特定の音が出ない、舌がもつれる、ろれつが回らない、などがあります。「滑舌が悪い」と感じている方は構音障害の中の後者の二つについて言っているのかもしれません。

また「滑舌」とは「言葉を明確に発音する口や舌の動き」とあり、滑舌が悪くなる原因として「舌や口の周囲の筋肉が硬くなり、動きが悪くなること」とあります。この口や唇などの筋肉の動きや舌の運動を障害させている原因として出っ歯(上顎前突)や口ゴボ(上下顎前突)、乱ぐい歯(叢生)などの不正咬合が関与している可能性は考えられます。

ただ矯正検査でアゴの運動や咀しゃく筋、舌の動きを診査するのですが、それらの動きに異常を認める場合は極めて少なく、滑舌が悪い状態を客観的に評価することが難しいのが現状です。
一つ考えられることは、不正咬合の障害で最も多い審美的な問題に起因する心理的な影響が発音や会話にも影響を及ぼしているのではないかと思います。その意味では不正咬合の改善は滑舌の改善に有効であると考えられます。

令和5年7月のある日

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おびひろアート矯正歯科 院長 今井徹
おびひろアート矯正歯科
院長 今井徹

【所属学会】
日本歯科医師会
日本矯正歯科学会
アメリカ矯正歯科学会
日本臨床矯正歯科医会

【経歴】
1979年3月 北海道大学歯学部卒業
1983年3月 北海道大学大学院歯学研究科修了(歯学博士)
1983年4月 北海道大学歯学部助手
1985年3月 北海道大学歯学部附属病院講師
1990年7月 日本矯正歯科学会認定医
1991年5月 文部省在外研究員としてアメリカ留学
1991年11月 北海道大学歯学部講師
1992年9月 日本矯正歯科学会指導医
1993年4月 北海道大学助教授
2000年8月 おびひろアート矯正歯科を開業
2006年11月 日本矯正歯科学会臨床指導医(旧専門医)