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2018年12月 3日

私事で二か月「院長一言」をお休みしました。今月から再開です。

最近の医療ではEvidence-based Medicine(EBM)という言葉がよく使われます。
EBMとは「臨床研究によるエビデンス(科学的事実)、医療者の専門性・経験と患者の価値観の3要素を統合し、より良い患者ケアのための意思決定を行うもの」(中山健夫)
ということです。

そのエビデンスの妥当性は五段階(エビデンスレベル)に分けられ、そのトップがシステマティックレビューです。

2015年にアライナー型装置に関するシステマティックレビューが学術雑誌に発表されましたので紹介します。

2000~2014年間に発表された多数の論文の中から7編が選ばれました。
それによると、アライナー型矯正装置は、

 ①歯の圧下(下げる)量は0.72mm程度、
 ②前歯の挺出(上げる)や回転、特に丸い歯の回転は非常に困難、
 ③上顎大臼歯の歯体移動による遠心(後ろ)移動は1.5mmまで、
 ④前歯の4~5mmまでの凸凹は改善可能、と述べられています。

結論として、マルチブラケット措置に比べ適応範囲が限定される装置なので、それを十分に理解することが大切です。

平成30年12月のある日

2018年9月30日

前回は矯正力の分布について考えてみました。
今回はいよいよ最後の要素「力の継続時間」についてマルチブラケット装置とアライナー型矯正装置とを比較します。

力の継続時間とは、力を歯にどのくらい連続して加えるのかと言うことです。歯に加える時間という観点から矯正装置には連続した力を加える装置と断続的な力を加える装置の二種類があります。

前者の代表がマルチブラケット装置です。この装置は取り外しが簡単にできないので、歯にはほぼ休みなく力が加わっています。それにより、歯が動くための周囲の骨などの組織変化が連続して起きていることになります。

したがって、装置が壊れたりしない限りはそれによる治療効果が確実に現れることになりなります。マルチブラケット装置が広く使われる大きな理由の一つです。

それに対し、アライナー型装置は取り外しが容易なため、力が歯に加わったり切れたり、さらに加わる時間も長くなったり短くなったりと不規則で断続的になってしまいます。

そのため、歯の動きは不連続で、治療効果の確実性は低くなります。
まさに患者さんの誠実さと根気強さに依存しているのです。

平成30年9月のある日

2018年8月31日

 前回は矯正力の方向について考えてみました。今回は第三の要素である「力の分布」についてマルチブラケット装置とアライナー型矯正装置とを比較します。

力の分布とは少々想像しにくいでしょう。矯正治療で歯を動かすためには歯に力を加えることが必要です。その加え方の違いによって歯は傾斜して動いたり平行に動いたりします。

学問的に言うと、力を歯根周囲にある歯根膜にどのように分布させるかによって傾斜するか平行に動くかが決まります。これを力の分布と言います。

マルチブラケット装置で歯を傾斜させるにはブラケットの位置や形状を考慮し、アーチワイヤーの細いものや柔らかいものを使います。ワイヤーを屈曲することもあります。

平行に動かすには同じくブラケットの形状を考慮し、ワイヤーの太いものや硬いものを選んだり、ワイヤーを屈曲したりします。専門的な知識・技術が必要です。

アライナー型矯正装置自体には力の分布を調整する機構を備えてはいません。あらかじめ技工所で作製される予測模型上の歯の位置が傾斜するか平行に動くかを決めています。
予測模型しだいということです。

平成30年8月のある日

2018年7月23日

 前回は矯正力の大きさの要素について考えました。今回は第二の要素である「力の方向」についてマルチブラケット装置とアライナー型矯正装置とを比較します。

矯正治療は歯を三次元に動かしますが、歯に加える力の方向が歯の動く方向となります。
マルチブラケット装置では力の方向を主に三つの方法で調節します。

第一はワイヤーの屈曲です。これをワイヤーベンディングと言い、1st、2nd、3rdオーダーベンドがあります。そのほかにも様々な形に屈曲することで力の方向を調節します。

第二は歯に装着するブラケットの位置を変えることです。

第三はワイヤーを挿入するブラケットの溝(スロットといいます)の形状を変えること。太さや角度の違ったスロットを持つブラケットが作られており、それらを適切に選択することが必要になります。

アライナー型矯正装置ではあらかじめ動かそうとする歯の位置を想定した模型を技工所で製作し、それを基に装置を作ります。作った装置を動く前の実際の歯に装着することで方向が決まります。このような製作工程なので、歯科医自身が歯を動かす量や方向を適時に調節することはきわめて困難です。

平成30年7月のある日

2018年6月29日

今回は歯を動かす時に必ず必要な矯正力の「大きさ」の点について、通常使われるマルチブラケット装置とアライナー型矯正装置とを比較してみます。

マルチブラケット装置は力の大きさを次のようにいろいろコントロールできます。

第一はブラケットに挿入するアーチワイヤー。
ワイヤーには断面の太さが十種類以上あり、断面の形も円形から四角まで三種類あります。金属の種類もニッケル・チタン合金やステンレススチールなど数種類あります。
さらに、ワイヤーをいろいろ曲げることでも力の大きさをコントロールできます。

第二は豊富な付属品の種類。太さや大きさのちがう輪ゴム、エラスティックチェインやスレッド、スプリングなど。

第三はブラケットにワイヤーを固定する結紮方法にもいろいろあります。

これらを自在に組み合わせることによって必要で十分な矯正力を歯に加えることができます。

それに対して、アライナー型矯正装置は製作する材料が2~3種類と限られ、しかも一つの装置には一つの材料でしか作れないため、マルチブラケット装置のようなハイブリッド的な力の大きさのコントロールはできません。 

平成30年6月のある日

2018年5月28日

矯正装置で歯を動かすためには装置が発生する矯正力を歯に加える必要があります。その力が歯と接触する骨に圧力として伝わります。圧力が加わった骨の部分に破骨細胞が出現し、骨が徐々に吸収されます。その吸収された部分に歯が移動します。

このような訳で、矯正治療にとって歯に加える力をコントロールすることは治療の経過やその結果を左右する非常に大切なものです。前回は力のコントロールを考える上で重要な4つの要素、①力の大きさ、②力の方向、③力の分布、④力の時間を挙げました。

従来のマルチブラケット装置とアライナー型矯正装置とを比較して、これら4つの要素にそれぞれどの様な違いがあるのかを考えてみます。

まず一番目の「力の大きさ」について考えます。矯正治療で取り扱う力(荷重)は50~200グラム程度です。食べ物を噛む力が数十キロあるのに比べると、とても弱い力です。そして、この力の大きさは歯の歯根が接触する骨の面積によって異なります。面積が大きいほど、すなわち歯根が太かったり、長かったり、数が多ければそれだけ大きな荷重を歯に加えなければ歯は動きません。
  
平成30年5月のある日

2018年4月24日

前回はアライナー型矯正装置の人気とその理由について考えてみました。
たしかに、ここしばらくはこの装置の要望は続くと思います。
ところが残念なことに、この装置で治療を受けた方々から学会への質問やクレームが多くなってきているのも現状です。
なぜなら、思ったほどには治療成果があがっていないからです。

その原因は装置自体の持つ特性にあると考えます。
矯正治療で歯を動かす場合、歯の解剖学的形態と歯を動かすのに必要な装置が発生する力(矯正力といいます)を考えなければなりません。
健康な歯はその三分の一は歯ぐきから出ていますが、残りの三分の二は歯ぐきの中の骨にしっかりと植わっています。
そのため、食べ物を噛み砕くための数十キログラムという強い力が歯に加わってもグラグラしてきたり、抜けたりしません。

そのようなガッチリの歯を人工的に動かすためには矯正力のさまざまな要素を考える必要があります。
その要素とは①力の大きさ、②力の方向、③力の分布、④力の時間の4つです。
これらの点について成人矯正でよく使われるマルチブラケット装置とアライナー型装置とを比較してみます。  

平成30年4月のある日

2018年3月27日

先日、矯正学会の先生から聞いた話ですが、学会への質問やクレームにアライナー型矯正装置のことが急増しているそうです。

アライナー型矯正装置とはインビザライン、クリアーアライナーなどと呼ばれ、透明で薄いプラスティックでできたマウスピースです。マウスピースなので取り外しは簡単で、これを2~3週間に一度新しいものに交換することで歯を動かす矯正治療を行います。東京など大都市中心部ではこの装置での治療希望者が極めて多く、矯正医もそれを使わざるを得ない状況のようです。

なぜそれほど多くなっているのでしょうか?幾つか理由を考えてみました。

まず一つは装着感。透明で薄い装置なので、歯につけていても目立たないために人目を気にすることはなく、着けた感じもほとんど違和感はありません。

二つ目は、一つのマウスピースで動かす歯の移動量は0.2~0.4 mm程度なので、歯への力の荷重が少ない.そのため、装着後の不快感や痛みも強くはありません。

三つ目は、外したい時はすぐに自分で外すことができます。そして、歯みがきも装置を外してするので口を清潔に保てます。でも、その中に大きな落とし穴があるのです。

平成30年3月のある日

2018年2月26日

矯正治療の現場から、凸凹(叢生)な歯並びを持つ子供達が右肩上がりに増えている気がします。治療を希望して受診する子供の約8割は凸凹の歯並びです。この傾向は矯正の患者さんだけではなく、小・中学校の歯科検診でも感じます。

2~3年前の3歳児健診であった実際の話です。3歳とはすべての乳歯が生えそろったばかりの頃です。受けた子供は6人と少なかったのですが、そのうち、正常な歯並びの子供は2人。前歯にすき間のまったく無い子が3人。すでに乳歯の前歯が凸凹になっている子が1人いました。永久歯の前歯は乳歯より大きいので、このままでいくと、確実に永久歯が凸凹になる割合は約7割という高い頻度が予想されます。

 これは何が原因なのでしょうか?学問的には「永久歯が大きくなっている」や「アゴの骨が小さくなっている」などと言われています。しかしながら残念なことに、それらを明確に裏付けた調査や研究はほとんどないのが現状です。聞くところによりますと、そのためのフィールドワークが企画されているようです。原因が分からなければ予防もできません。調査結果が楽しみです。   

平成30年2月のある日

2018年1月29日

質問「歯並びとむし歯って、関係あるの?」、答えは「Yes」。
これはほとんど常識で、今さら考える必要もないと思っている人はたくさんいると思います。しかし、実はそのことを科学的に研究したり、大規模調査を行ったりして論文などで発表されていることが少ないのです!

数十年前学生だった頃、歯科矯正学の教科書にも悪い歯並びはむし歯や歯周病の原因になると書いてありましたし、授業でもそう教えられました。実際の矯正治療をしていても、歯並びが良くなるにつれて、今まで凸凹で見えなかった歯の部分にむし歯ができていたりすることはよく経験します。そのようなことから、いくら一所懸命に歯磨きしても、歯並びが悪いとむし歯になってしまうことに疑問を感じたことはありませんでした。

ところが、以前むし歯の発生の危険性についての論文を作るためにその根拠となる研究を探そうとした時があるのですが、なかなか見つかりませんでした。大学の先生からも同じ苦労をしたことを聞いたことがあります。当たり前の常識はなかなかアカデミックな活動と結びつかないのでしょうか。 

平成30年1月のある日

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おびひろアート矯正歯科 院長 今井徹
おびひろアート矯正歯科
院長 今井徹

【所属学会】
日本歯科医師会
日本矯正歯科学会
アメリカ矯正歯科学会
日本臨床矯正歯科医会

【経歴】
1979年3月 北海道大学歯学部卒業
1983年3月 北海道大学大学院歯学研究科修了(歯学博士)
1983年4月 北海道大学歯学部助手
1985年3月 北海道大学歯学部附属病院講師
1990年7月 日本矯正歯科学会認定医
1991年5月 文部省在外研究員としてアメリカ留学
1991年11月 北海道大学歯学部講師
1992年9月 日本矯正歯科学会指導医
1993年4月 北海道大学助教授
2000年8月 おびひろアート矯正歯科を開業
2006年11月 日本矯正歯科学会専門医