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2026年6月29日

上顎前突(出っ歯)や反対咬合(受け口)などの不正咬合の原因には大きく遺伝的な原因と環境的な原因、それらのそれぞれに全身的なものと局所的なものに分けられています。

上顎前突の場合、遺伝的原因としてはクルーゾン症候群やトリチャーコリンズ症候群など、環境的原因としてはピエールロバン症候群などがありますが、発現頻度はいずれも30,000~60000に一人ときわめて希な原因です。ほとんどの場合は何らかの病気や異常によるものではなく、人それぞれ顔や姿が違うようにそれぞれ個人の持っている成長能によるものと考えられています。

上顎前突の異常を起こす構造的原因には骨格的なものと歯槽的なものとの二つに分けられます。前者は上アゴと下アゴの位置関係の異常、後者は上と下の前歯の生え方の異常があります。

骨格的な上顎前突は上アゴの成長が強い場合や下アゴの成長が弱い場合、歯槽的なものは上の前歯が前に傾いている場合や下の前歯が後ろに傾いている場合があり、それらが単一なこともありますが、多くの場合は幾つか複合してできている場合が多いと考えられています。矯正専門医はこれらを明らかにすることを目的に矯正検査・分析と診断を行っています。

今までの研究結果から上顎前突は上アゴが前に出ている場合は少なく、むしろ下アゴが後ろにある場合が多いといわれ、おおよそ70%以上との指摘があります。
実際の当院での診療でも下アゴの劣成長あるいは後方回転と診断される場合が多いと強く感じています。そのため、矯正治療ではこの問題点をできるだけ改善する治療方法の組み立てが必要となってくることになります。

令和8年6月のある日

2026年5月25日

4月の院長一言では出っ歯(上顎前突)の日本人が増えていることと矯正治療でも出っ歯の治療が増加していることを書きました。どうして出っ歯の患者さんが増えているのかは「歯科疾患実態調査」から人数が増えていることは分かりましたが、そのほかにも何か理由があるのではないかと考えていました。

昨年のアメリカの専門雑誌(Angle Orthodontist)に面白い研究が発表されていました。口唇の突出度や厚みの人種による好感度の違いを調査した研究です。白人(ヨーロッパ人)、黒人(アフリカ人)、極東人(日本や中国など)、中東人(アラブ人など)の四つの人種それぞれ約百人の回答者に、横顔のイーライン(鼻先ーオトガイ)を基準に口唇を前後に六段階変化させた場合の好感度を調べました。

その結果、人種によって横顔の好みが違うことが分かりました。平均的な口唇の厚みの場合、黒人はイーラインより2mm前方、白人は1mm前方、中東人は4mm前方、そして極東人は1mm後方が最も高い好感度でした。口唇の厚い場合も薄い場合も同じ結果でした。さらに、極東人は薄い口唇がもっとも好まれたとのことでした。

そのほか幾つかの研究を調べてみると日本人の場合、口唇が突出しているよりもわずかに後退した方が好まれるという結果でした。また、出っ歯による「口ゴボ」という感じの側貌は好感度が低く、フラットな横顔が好まれると述べられていました。

口唇の突出度は顔貌の好感度に影響をおよぼす要因の一つです。
実際の矯正治療においても前歯の移動によって口唇の突出度が改善した場合に患者さんの満足度は高いと感じています。
イーラインを提唱したリケッツ先生の1957年の基準と現代とは違ってきているようです。

令和8年5月のある日

2026年4月28日

先々月(2月)の院長一言で、昔は反対咬合(受け口)の矯正治療が多かったこととその理由について書きました。今回は、最近の状況はどうなのかをみてみたいと思います。

厚生労働省が4~5年ごとにむし歯や歯周病など歯科の病気を全国規模で一般集団を対象に調査する「歯科疾患実態調査」という統計調査があります。その中に不正咬合の調査も含まれています。

それによると、2005年の調査では叢生(乱ぐい歯)がもっとも多く39.8%、次が上顎前突(出っ歯)で36.9%、反対咬合(受け口)は1.6%でした。2010年では叢生は43.1%、上顎前突は32.9%、反対咬合は2.3%、そして2016年では上顎前突がもっとも多く40.1%、次が叢生で26.1%、反対咬合は1.8%でした。一般集団でもっとも多い不正咬合が上顎前突で、しかも不正咬合の半数近くであることがわかりました。

ちなみに1981年の石川県での学童では上顎前突は4.2%、1997年の札幌市での調査では8.9%でした。以前に比べていかに上顎前突が増加しているのかが分かります。

矯正患者を対象とした最近の調査をみると、2024年の日本矯正歯科学会での調査報告では叢生は37%、上顎前突は25%、反対咬合は16%でした。当院でも2010年からの受診患者を対象に調査してみました。その結果では叢生は82.9%、上顎前突は53.2%、反対咬合は17.1%でした。

これらの調査報告から、不正咬合になっている日本人が近年増加していること、中でも歯並びが凸凹であったり、出っ歯の場合が多いことがわかります。これもタカトシではないですが「欧米化」ということでしょうか。 
       
令和8年4月のある日

2026年3月31日

矯正治療は大きく分けて二種類あります。一つは主に小学生の成長期から始める早期治療、もう一つはマルチブラケット装置などを使って治療する本格矯正治療です。今回は早期治療に深く関わる成長についてお話しします。

矯正治療で重要な成長とは一つは顔やアゴの骨の成長、もう一つは歯の形成や萌出についての成長です。一人一人の患者さんに関するこれらの成長段階を検査や診査によって随時把握し、段階ごとに適した矯正装置を選択し、必要な期間だけ使用するようにしてもらうことによって治療を進めています。成長には個人差があり、これら成長を正しく把握することは極めて重要な情報になります。

それぞれの患者さんの成長を知る指標に「年齢」があります。一般的に年齢といえば生まれてからの時間を表す○歳○か月といったもので、これを「暦年齢」と言います。医学的には暦年齢のほかに「骨年齢」や「歯の年齢」といったものが使われています。

骨の成長の段階を詳しく調べて、その成長段階に分けて年齢を決めているものを骨年齢といいます。対象となる骨は手の骨や頸椎などがあり、それらのレントゲン写真を使って年齢を決めています。

歯の年齢にもいろいろな測定方法があります。よく使われているもでは乳歯や永久歯の萌出状態を10段階に分けて表すものがあります。そのほかにレントゲン写真を使って歯の形成の度合に分けて成長段階を決める方法が幾つかあります。

矯正治療を行う場合には適切な時期に適切な治療が行えるよう、これらの成長状態を多角的に調べることが重要です。

年齢の測定方法は小児医学での治療や法医学での年齢推定などほかの分野でも使われているようです。  

令和8年3月のある日

2026年3月 2日

前回は大学で診療していた時の矯正患者の80%近くが反対咬合、いわゆる受け口の患者さんだったと話しました。では、当時はどうしてそんなに受け口の患者さんが多かったのかを振り返り、考えてみました。

矯正治療を受けたい、治療をしたいと考える一番の理由はやはり「見た目の問題」です。今までいろいろな調査から矯正患者のもっとも多い、90%以上の動機はこの「見た目」を指摘しています。

受け口の場合もそれにより見た目が悪くなります。患者さんの訴える具体的な内容としては「下あごが出ている」、「アゴがしゃくれている」、「横顔が気になる」、「下の前歯が出ている」などがあります。風刺漫画でも受け口の顔のイメージでは「魔女」、「意地悪なおばさん」、「陰うつな感じ、不機嫌な感じ」などとして表現されていることが多くみられます。

子供に治療を受けさせたいと来られる母親からは「子供が可哀想だから」とか「女の子だから」、「将来が不安だから」などと話される母親が多かったことを思い出します。

成人の患者さんもやはり小さい頃から受け口が気になっていて、社会人になったことを機会に治療を受けようと決意して来られる方も多くいました。

そのほかの理由では「しゃべりづらい」、「話が聞き取られにくい」などと発音を気にすることが多かったです。以前の研究結果から、受け口になると正しい口の形と違うようになるために発音が不自然になってしまいます。また、上と下の前歯が近づけないので「サ行」などの音が出づらくなることも明らかになっています。

受け口は不便なかみ合わせなのです。 

令和8年2月のある日

2026年1月28日

昨年、北海道矯正歯科学会で「開業10年目と20年目とでの当院患者の変化に関する実態調査」という演題名の発表をしました。昨年も書いたと思いますが、開業して25年間矯正治療を続けてきたその間に、治療を希望する方の不正咬合(歯並びやかみ合わせの異常)の種類がずいぶんと変わってきているのではないか?と感じたので調べてみました。

開業する前は大学病院に勤め、矯正治療を専門に仕事をしていました。医局に入った当初は患者さんのほとんどが反対咬合、いわゆる受け口の状態でした。当時は矯正歯科を専門に単科開院している歯科診療所が少なく、大勢の子供達が大学病院を受診していました。

必要とされる矯正装置は口の中にはリンガルアーチという数本の歯をワイヤーで動かす装置、口の外には下アゴの成長をコントロールするためのチンキャップという帽子のような装置で、それを使って治療をしていました。仲間の間では「チンリン」と言って話をしていました。

ある集団を対象として病気がどのくらい発症しているのかを統計学的に調査することを疫学調査といいます。1970~80年代の大学病院での矯正患者を対象とした不正咬合の種類についての疫学調査では神戸大学では37%、広島大学では39%、愛知学院大学では43%、福岡歯科大学や九州歯科大学では45%と発表されています。矯正患者の半分近くが受け口ということでした。

北海道大学による疫学調査はありませんが、その頃の担当患者の比率をみると8割近くが受け口であったように思っています。日本の中では九州地方と同じかそれ以上に北海道には受け口が多かったのではないかと考えていました。

令和8年1月のある日

2025年12月22日

ニュースや新聞などにAIについての記事を目にしない日が1日もないほど、世界的な関心がますます高くなっている時代です。AIの功罪がいろいろと議論されていますが、その開発の速度は増すばかりでユーザーも増加しています。手近にあるスマホを取って検索をすると、真っ先に出てくるのがAIによる回答です。この流れは当然ながら矯正歯科にも押し寄せてきています。

最近の研究論文にはAIがタイトルに含まれているものが増えています。主なものでは矯正治療に重要なレントゲン写真の分析で、自動的に計測点を抽出する精度を専門医と比較したり、顔の写真で治療予測を行ったりなど多岐に渡っています。

それらの論文の一つに矯正歯科の情報に関するAIと歯科関係者との比較を行った研究がありました。
矯正歯科についての40個の質問に対する5つのChatbot(2つのChatGPT、Copilot、Gemini、Sonnet)と歯学生、一般歯科医師、矯正専門医の3者からの回答を比較した研究です。

その結果、正解率の高い順から矯正専門医、ChatGPT、一般歯科医師、Copilot、Sonnet、歯学生、Geminiでした。矯正専門医がAIよりも高得点だったことには安心しましたが、歯科医師よりもChatbotの方が高いのもあることには驚かされました。

さらに、Chatbotの正解率は78~92%と80%前後に集中していたのに対して、一般歯科医師は32~90%、医学生は40~77%と幅がありました。ちなみに矯正専門医は85~100%でした。

今回の質問は専門性の高い内容で、通常の歯学教育では正解が難しいのですが、それにしてもAIによる正解率が高かったことには驚かされました。むしろ脅威ともいえます。

令和7年12月のある日

2025年12月 1日

今月は先月の続きで「文献検索」の「今」を取り上げます。地方都市に住んでいるので歯科歯科学に関する専門雑誌のある図書館はありません。そのため入所が難しい研究論文はあきらめていました。

ところが今はインターネットの時代。PCやスマホで知りたいことをネットに打ち込むと、一瞬にしてありとあらゆる情報が手に入れることができる時代です。しかも、そのたびに料金を払う必要がありません。なんと夢のような時代ではないでしょうか。

私の関係する歯科矯正学の分野でもインターネットの活用が進んでいます。「文献検索」もその一つになっています。かつては図書館に行って雑誌を調べ、載っているページを調べ、コピーを取っていました。今はそんな苦労をする必要はありません。

PCの前に座ったままでGoogleを開き、検索用語を入力し、リターン。そうすると、アッという間に必要な論文や、それに関連する論文がズラリとたくさん画面に出てきます。出てきた青字で書かれた論文をマウスでクリックすると、専門雑誌のサイトにつながり、論文を読むことができます。しかも、日本では手に入らない雑誌の論文も読むことができるようになっています。矯正に関する専門雑誌がこんなにたくさんあることは知りませんでした。

歯科矯正学の二大雑誌である「The Angle Orthodontist」は昨年から、「American Journal of Orthodontics and Dentofacial Orthopedics」は今年からインターネットで雑誌を調べることができるようになりました。しかも百年以上前の創刊号からマウスをクリックするだけですぐに読むことができます。さらに前者の雑誌は無料で保存、印刷ができます。学術情報が大量に、簡単に、短時間に手に入る時代になりました。

令和7年11月のある日

2025年10月30日

大学では矯正歯科の診療のほかに研究も重要な仕事の一つでした。日々、診療をしていると「これはどうなんだろう」、「今までに何が分かっているのだろう」、「何かもっと良い方法はないのか」、「もしかしてまだ分かっていないことではないのだろうか」、などいろいろと疑問が浮かんできます。その答えを見つけていくのが研究の面白いところです。

今まで携わってきた研究には、矯正治療の対象である不正咬合の頻度、不正咬合の発音や筋肉への影響、不正咬合と顎関節症の関係、矯正治療後や外科手術後の後戻りの状態、歯の移動による歯根への影響などがありました。今でもまだまだ分かっていないことが多く残っています。

研究を始める時にはまずそのテーマに関する研究がいつから行われ、どういうことが明らかになっていて、何がいまだに分かっていないのか、今までどんな方法で研究されているのか、などをあらかじめ調べておかなければなりません。これらの詳細な内容は教科書からはほとんど手に入りません。専門雑誌に掲載されている研究論文を見つけて、読んで、調べなければなりません。この作業を「文献検索」といい、研究にとって重要な仕事の一つになります。

たくさんの専門雑誌を個人が持っていることはないので、必要な論文を入手するために歯学部の図書館に行って雑誌を探します。無ければほかの学部の図書館や全学中央の図書館に行って探します。それでも無い場合は雑誌を所蔵している大学などの図書館を係の人に調べてもらい、あった時にはそのコピーを送ってもらうよう手続をします。手に入るまでには終日~数か月かかってしまうことがありました。これがかつての文献検索です。

令和7年10月のある日

2025年9月24日

先月書きましたが、矯正治療の治療期間が長い理由は歯の動きが遅いことにあります。歯に矯正力を加えることで周囲の骨を吸収させたり、添加させたり(リモデリング)して歯を動かしますが、普通は一か月に1mm位しか動きません。早く歯を動かすことができれば治療期間も短くなります。そのための研究が幾つかあります。

一つは遺伝子治療です。骨のリモデリングでの骨形成因子や血管内皮増殖因子に遺伝子を導入します。動物実験では歯の移動が150%加速したという結果が報告されています。

つぎに外科的手法で皮質骨切開術、骨切除術、ピエゾ切開術などがあります。一時的に骨の代謝を増加させますが、疼痛、腫脹、感染などのリスクも伴います。

歯に機械的振動を加えることにより歯はより早く動くということで、AccleDentという製品が外国で販売されています。非侵襲的ですが、残念ながら研究では有意な効果は確認されていません。

磁場を利用する手法があり、静的磁場やパルス磁場を歯に加えて骨形成を増加させるという方法です。しかしながら臨床的根拠は限定的で、人体への影響は不明ということです。

低出力レーザーを照射することで骨のリモデリングを促進する方法があります。この方法は多くの臨床研究でも歯の加速は確認されています。しかしレーザーの波長、出力密度など標準化されたガイドラインは確立されていません。

そのほかに薬物(プロスタグランディン、副甲状腺ホルモン、ビタミンD類似体、モノクロナール抗体、成長ホルモン)や幹細胞ベースの治療など多方面からのアプローチが行われています。これからの科学の発展に期待が高まります。

令和7年9月のある日

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おびひろアート矯正歯科 院長 今井徹
おびひろアート矯正歯科
院長 今井徹

【所属学会】
日本歯科医師会
日本矯正歯科学会
アメリカ矯正歯科学会
日本臨床矯正歯科医会

【経歴】
1979年3月 北海道大学歯学部卒業
1983年3月 北海道大学大学院歯学研究科修了(歯学博士)
1983年4月 北海道大学歯学部助手
1985年3月 北海道大学歯学部附属病院講師
1990年7月 日本矯正歯科学会認定医
1991年5月 文部省在外研究員としてアメリカ留学
1991年11月 北海道大学歯学部講師
1992年9月 日本矯正歯科学会指導医
1993年4月 北海道大学助教授
2000年8月 おびひろアート矯正歯科を開業
2006年11月 日本矯正歯科学会臨床指導医(旧専門医)