院長の一言... 「不正咬合による発音障害 その1」
不正咬合(歯並びやかみ合わせの異常)によりさまざまな不都合が起こっています。その一つに発音障害があります。初診時の矯正相談で患者さんから「発音がしづらい」とか「滑舌が悪い」とかの訴えをよく聞きます。発音障害は不正咬合と深く関連があります。
「どの言葉が発音しづらいですか?」と質問すると、「サシスセソ、サ行が話しづらい」と答えることが多いです。それには理由があるのです。
私達が発音をする場合には調音方法と調音点という2つの重要な動きを口で巧みに行っています。調音方法には上と下の唇で吸気を破裂させて作る破裂音「パピプペポ」や上と下の前歯で吸気を摩擦させて作る摩擦音「サシスセソ」などがあります。調音点とは破裂音では上と下の唇、摩擦音では上と下の前歯のことをいいます。
これらの動作を瞬時にしかも連続して行なうことによっておしゃべりをしているのです。これら調音方法のやり方や調音点の構造に異常があると発音障害が起こってしまいます。
不正咬合で頻度が多いものに出っ歯(上顎前突)と受け口(反対咬合)があります。
出っ歯の場合は上の前歯が下の前歯よりも前に、受け口の場合は逆に後ろになっていて、どちらの場合も正常なかみ合わせよりも上と下の前歯が離れてしまっています。
それによって上と下の前歯で吸気をうまく摩擦させることができなくなっているのです。出っ歯や受け口の場合にもっとも発音しづらい言葉が摩擦音「サシスセソ」になっているのはそのためなのです。しかも、それでも何とかそれらしい音を作ろうと無意識ながら工夫をしているのです。その工夫として舌を使って音を作っていることが多く、そのために不自然な摩擦音になってしまっています。これが不正咬合による発音障害の理由です。
この科学的解明は1991年に北海道大学歯学部歯科矯正学講座の山本隆昭博士によって行われました。
令和5年5月のある日