院長の一言...「矯正治療での歯の動きの研究」
矯正治療の大きな問題点の一つは治療期間が長いことで、年単位の時間を必要とします。その理由は歯の動きにあります。
矯正治療ではいろいろな装置を使って、歯に力(矯正力と言います)を加えることで歯を動かします。よく使われているマルチブラケット装置(ワイヤー矯正)でも、今話題になっているアライナー(プレート)矯正でも歯に力を加えて歯を動かすメカニクスは同じです。
矯正治療による歯の移動は矯正力という機械的刺激が歯根の周囲にある歯根膜と歯槽骨に加わることによって、骨の吸収と添加というリモデリングが生じ動きます。弱すぎる力では歯は動きませんし、強すぎると組織破壊が生じてしまうので、適切な大きさの力が必要です。それでも一か月に歯の動く距離はせいぜい1mmです。
この距離を大きくすれば治療期間も短縮することができます。そのためには歯の動くメカニズムを詳しく知らなければなりません。歯に矯正力を加えると歯によって押される側(圧迫側)の骨には骨を吸収する破骨細胞が、反対側(牽引側)には骨を添加する造骨細胞ができることは以前から分かっていました。しかし、この破骨細胞や造骨細胞がどのようにして発生してくるのかは歯根膜を解剖して細かく観察してもなかなか解明することができませんでした。
近年のめざましい生物学の発展の一つに分子生物学という分野があります。歯科矯正学もこの研究手法を取り入れて、歯の移動を起こすメカニズムの解明が進んでおり、その研究結果がさまざまな研究機関から発表されています。今はまだ試験管や実験動物の段階ですが、次の段階ではそれら研究成果を実際の矯正治療に取り入れることができるようになります。近い将来、短い治療期間の治療が実現できることを心待ちにしています。
令和7年8月のある日